中国新聞社

(20)病理の結果「異常なし」に喜びじわり

2001/9/16

 手術後の最大関心事は、病理組織診断の結果である。手術中に主治医が肉眼で確かめ、腹腔(ふっくう)内の各部分にがん組織があるかどうかを病理医も同時に確認したうえで終了する。さらに、摘出した臓器やリンパ節を切片にし、病理医が顕微鏡でがん細胞の有無を細かくチェックして、一週間後に最終報告となる。

 すべては、経験と知識に裏づけられた病理医の「眼(め)」が勝負なのだ。ここで間違えたら、大どんでん返しになる。人生がまるで変わってしまう。

 私にかかわっている医師は、主治医をはじめとする婦人科医たち、麻酔科医、そして病理医だ。婦人科医は、日々かかわるので、顔も名前も、性格やクセまでよく知っている。術前に説明を受ける麻酔科医も顔、名前、雰囲気、説明ぶりから人物評価(?)は可能である。

 しかし、自分の病理診断をしてもらう病理医については、顔はおろか、名前さえ分からないことが多く、患者に力量などを判断するすべもない。ある病院では、希望すれば、病理医が主治医と同席し説明していると聞いた。

 患者が希望すれば、すべてを分かりやすく説明する義務が医療者側にはあり、患者側には聞く権利があると思うのだが、現実にはどちらにも壁がたくさんある。

 私は入院時から知りたいことばかりで、「みんな情報を得たい」と宣言していたので病理診断結果のコピーをもらった。婦人科医から説明を聞いたが、自分でゆっくり読んでみたかった。テストの答案用紙をもらった気分で部屋に戻った。

 A4の紙一枚に、英語で書かれ、病理医のサインがある。「この人が診断したのか」と、手慣れたきちょうめんな文字に、少しホッとした。一方で、「病理医からじかに説明を受ければ、もっとホッとできるのに」と、不満ものぞいた。

 早速、辞書と首っ引きで訳してみる。「子宮や右卵巣に、がん組織は認められない」「十六個のリンパ節に転移は認められない」…。結果よければ、すべてよし。私の性格からして、大声で狂喜乱舞してしまうのかと思っていたが、じんわりとした、心に染み入るような喜びだった。

 「本当に抗がん剤が効いたのだ。あと二クール、二カ月駄目押しの化学療法を頑張れば、終わりだ」。到達目標が見え、「よーし」と、心の中でガッツポーズをした。

 しかし、まだ春は遠かった。

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