中国新聞社

(34)職場に戻る焦らず体力つけながら

2001/12/23

 以前と違って、体は思うようには動いてくれない。ただ、口だけは前にも増して、一層拍車が掛かってきた。

 職場である訪問看護ステーションに戻って、自分のデスクに座ると、「よーし」と、やる気がわき上がってくる。あれやこれや、やり残したままのものが山積みになっているので、どこから手をつけようかと思案にくれる。

 「もう、座っているだけにしといたら」などとスタッフに言われるが、電話の応対や事務的な仕事だけでは物足りない。私のように仕事を持っている女性は、退院してからも、じっと家で療養しているよりは、外の風に当たる方が精神的にもいいような気がする。

 「その後、どうしてる?」。入院仲間に電話してみた。「家より会社の方がいいみたい」という返事。「やっぱり、そうよね」と相づちをうちながら、互いの近況を報告し合う。

 しかし、がん闘病のエキスパートからは、こう教え諭された。「最初は、仕事したくて動く。今までの分をとり返そうとしてね。でも、無理してることに気が付かない。最初の一年は、焦ってはいけない。体力をつけながら、じっと我慢することよ」

 今までのモーレツ仕事人間のペースにならず、ほどほどでやっていくのが、ベストなのかもしれない。仕事のことばかり考えているわけではないけれど、知らず知らずのうちに仕事中心の日常生活になってしまう。「どこかで、線を引いておかなくては」と、気掛かりになる。

 さらに食事のこと、睡眠時間のことなど、改めなくてはならない。自分へのご褒美とばかり、おいしいものを食べたり、夜更かしして面白い本を読んだりすることが長く続くと、また元のもくあみになってしまう。

 退院した時、「日々、充実感が感じられるような生き生きとした時間を過ごそう」と心に誓った。時間がとても大切に思えるようになったのは事実だ。

 できるだけ、自分のための時間をつくろう。夫との時間も、もっとつくろう。友達と会う時間もつくろう。いろいろ思い描くことが、どこまで本当にできるのかは分からない。うまくチャンネルを切り替える技を、身に着けておこうと思う。

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