座談会皆で汗流し新球場 width=

広島東洋カープの本拠地、広島市民球場(中区)の建て替えを目指す「たる募金」が二十日、スタートした。
新球場問題にかかわりや関心を持つ広島商工会議所会頭の宇田誠、作家の迫勝則、建築家の前岡智之の三氏に、
新球場建設の意義や手法、地域と球団の関係などについて、話し合ってもらった。(敬称略)

広島商工会議所会頭
宇田 誠氏

作家
 迫 勝則氏

建築家
前岡智之氏

うだ・まこと 1957年、広島銀行入行。岡山支店長などを経て94年に頭取。2000年から会長。サンフレッチェ広島後援会長なども務める。04年11月、広島商工会議所会頭に就任。福山市出身、広島市佐伯区在住。70歳。 さこ・かつのり 1969年、東洋工業(現マツダ)入社。01年3月に退職。在職中から作家活動を続け、「さらば愛しきマツダ」など著書多数。12月中旬「広島にカープはいらないのか」(仮題)を刊行予定。広島市佐伯区出身、在住。58歳。 まえおか・ちゆき 一級建築士、中国セントラルコンサルタント(広島市西区)社長。地元の建築家有志でつくる広島市民球場の再生を考える協議会のメンバーで、6月から月2回、手弁当の勉強会を重ねる。広島市中区出身、安佐南区在住。56歳。

●司会 中国新聞社編集局長 小野増平

 



新球場建設問題について議論する左から 前岡氏、
宇田氏、迫氏。右端は小野編集局長(中国新聞ビル)

■建て替えの意義

ショー空間つくろう   迫氏
移転は中枢性損なう 宇田氏

 ―なぜ今、新球場は必要なのですか。

 宇田 ここ十年広島は活力がないとされてきた。道州制の議論が進む中、今のままでは州都になれるかどうか。棚からぼたもちの時代ではない。個性と魅力ある広島づくりの一つとして新球場が浮上する。
 カープと市民の結び付きも大きい。勝って喜び、負けて憂い、カープは暮らしの支えであり、地域に根付く。その舞台が四十七年たち、老朽化している。市民が足を運びやすい「器」ができれば、選手の士気も高揚するはずだ。

  物心ついた時にカープが誕生した。つい、自分とカープの歴史を重ね合わせてしまうほどだ。ただ、球場建設は手段で、目的ではない。カープのためでなく、あくまで広島を活気づけるためのものだ。
 今年六月、ニューヨークのヤンキースタジアムを訪れた。ライトブルーに統一された空間で繰り広げられるのは、まさに一流のショー。選手とファンが身近な今の市民球場の良さも分かるが、時代が求めているのはそんな劇場空間ではないか。建て替えは、時代の要請でもある。

 前岡 毎年八月六日、広島が世界に発信するメッセージとして、原爆慰霊碑から原爆ドームに向けての風景がある。その背景が球場。平和記念公園が人類の悔恨、ざんげの場とすれば、球場は復活の証しでありお祭りの場だ。その二つの空間の連続と対比が、広島の変わらぬ都市軸。その風景を完成させる意味で、まずは現在地建て替えを議論すべきだ。

 ―現在地という声が出ましたが、場所はどこがよいのでしょう。

 宇田 現球場は広島の中心部で交通の便も良い。にぎわいを生みやすく、球場を基盤に暮らす人もいる。東広島駅貨物ヤード跡地(南区)を望む声もあるが、にぎわいの拠点は、あちこちにつくるべきではない。それに移転は新たな跡地問題を生む。費用対効果を考えると現在地の建て替えが良い。
 ただそうなると、カープは二年ほどホームグラウンドを離れざるを得ない。年間指定席など、球団に対し現球場が生む収入がなくなるので、皆で支える必要がある。

■機能と整備手法

「町衆」集う組織必要 前岡氏
年中人呼べる施設に 宇田氏

 ―ドームか、青空球場か、意見は分かれます。

 宇田 当面は、カープの松田元オーナーや選手が求めるけがの少ない天然芝の青空球場がいいだろう。ただ、財政状況が好転した時に屋根が掛けられるようすべきだ。道州制は広域化につながる。山陰や四国からの動員を考えたとき、スケジュール化は大切。雨天中止を避けるためにも、ドーム化や開閉型球場に向けた基礎工事は済ませておくべきだ。

  私は違う。野球というのは「野」と「球」と書く。本来、風や雨など自然の影響を受けながらのスポーツであり、ドーム球場で行われる「屋球」ではないはず。中止になるリスクもあるが、それを含めての野球だ。新球場は、そんな野球の原点を追求する場であってほしい。

 ―球場の機能にアイデアはありませんか。

 前岡 球場に何の役割を持たせるかは大切だ。レジャーの中で野球が占めるシェアが落ちているのは否めない。そんな時、球場は野球の単一機能だけでいいのか。野球に興味のない人も引き付ける機能がほしい。例えば、原爆ドームは昔の産業奨励館。市民球場の一部にそんな機能を持たせてもいい。

 宇田 確かにそうだ。市民球場が稼働するのは年間百二十日ぐらい。都心の一等地と考えれば何とも惜しく、三百六十五日に近い集客性を持たせたい。スポーツ王国といわれた歴史が広島にはある。スポーツ医学や科学的トレーニングの粋を集めた総合診療・研究センターでもよいのでは。広島にしかない施設をつくる努力が大切だ。

 ―現在、前岡さんら広島の建築家が球場の設計案を練ってますね。

 前岡 大きく三つある。一つは隣接する広島商工会議所など民間施設と球場を合わせた再開発案。合意に時間がかかる場合も考慮して段階的に考える。
 二つ目は、現球場を使いながら改修する、いわば「ビフォーアフター」案。現球場のコンクリートは今では珍しくなった太田川の川砂を使っている。そんな文化財的な価値を生かしながら、問題のある客席、トイレなどを手直しするやり方だ。
 最後が城南通りの北側、中央公園自由広場に球場を新設する案。カープが一時的に広島を離れなくていいし、中央公園が開かれ、都心と横川地区が一体化する。元球場跡はバザールなど楽しい場に生まれ変わる。近々発表できると思う。

 宇田 ボランティアだそうですね。新球場建設のための官民一体の検討委員会が具体的な検討に入ったら、ぜひ参加していただきたい。

 ―いずれにしろ大事業。行政の関与なしに実現は難しいのでは。

 前岡 市民球場に限らず、一般的に公的施設を造るのは行政と、市民も行政も思い込んでいる。市民球場はもともと広島を思う広島人が造った。今の時代にふさわしいやり方があるはず。行政は主人公でなく事務的支援が本質だと思う。

  仮に県や市が出資したとしても、元をただせば住民の金。どういうルートにするかという近視眼的な見方よりも、出資と観戦が合致するシステムをつくるべきだ。

 ―そうはいっても、百億、二百億のお金を民間が出せるでしょうか。

 宇田 球界再編も絡み、球場建設は緊急課題だ。市民球場は国有地に建ち、市が管理している以上、市が旗振り役になるのがふさわしい。県とも連携し、すそ野を広げたい。二、三年はかかる大事業。経済界も汗を流し、傍観はしない。
 資金調達方法にはSPC方式で、一口十万とか五十万とか、能力の範囲で出資し建設にかかわる手法もある。市民が金のびょうを打って、将来は「自分の祖父がかかわったなあ」などと思ってもらうわけだ。

 前岡 規制緩和が進み、最近は特区制度もある。現在地建て替えの場合、都市公園内の公園施設とし、収益施設を認めるとか民間管理の十年の年限を延ばすなどが考えられる。国の補助を引き出す余地もある。
 行政中心でなく、企業や市民で構成する法人の中に公共のお金を入れて事業を成り立たせる仕掛けを考えている。市民球場は広島の財界「町衆」が造り、市民が応援した。現代の町衆は行政ではなく、商議所だけでもない。市民を含めた町衆を糾合する組織が必要だ。

 ―在広マスコミ十三社・団体によるたる募金が二十日から始まります。

  宇田さんが言われる「主体は行政」というのは、理屈ではその通りだが、実際に機能できるだろうか。そんな時、理屈を超え、市民がダイレクトに行動できる場として、たる募金はむちゃくちゃ面白い。盛り上がるか、意外に冷めたままか。それ次第でこの問題の方向性が見えてくる。

 宇田 金額よりも、みんなの気持ちの導火線のような役割になる。経済界、行政にもインパクトを与える。

■地域と球団

中四国出身の選手を 前岡氏
一丸仙台に負けるな 迫 氏

 ―球界再編で、地域と球団とのかかわりに関心が高まっています。

 前岡 もしカープがなかったら、中国新聞からカープの記事がなくなったら―と思うとぞっとする。生活のいろいろな断面で球団を生かすためには、カープはもっと中四国にこだわった方がいい。出身者を積極的に取れば、その選手の郷里にも縁が広がる。

  一九七四年に長嶋茂雄氏が現役引退し、翌年にカープが初優勝した。そのころから地方の時代といわれ、カープはその後十年で四回もリーグ優勝。中央集権に対する象徴だった。カープ復活は広島の復活だ。楽天の誕生で仙台が沸いているが、広島の方が先輩。負けてはいけない。

 ―元祖「市民球団」のカープへの注文は。

 宇田 松田オーナー、選手、職員には、「もっと市民の方へ寄ってきて」と言いたい。「地元密着」を具体的に示してほしい。財務内容の開示も必要だ。八千万円の黒字の中身をつまびらかにして、「よくやってるな」と思わせてほしい。松田オーナーも最近は、「求めに応じてどんどんやります」と言っており、地域に球団を近づける情報公開を期待している。


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新球場建設たる募金 賛同者

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