中国新聞



2001/8/03

フランス平和自治体協会顧問
美帆シボさん(51)
■被爆国としての主張を
「核の傘」問い直し必要
<プロフィル> 静岡県生まれ。1982年に「フランス広島・長崎研究所」を設立。同国内で被爆の実相普及に努める。フランス人の夫とともに自治体の平和・反核活動にも力を入れる。「欧州短歌」所属。
 

 ―マラコフ市助役の夫のミッシェルさん(53)とともに、世界平和連帯都市市長会議に参加するのは何度目ですか。

 私は一九八五年の第一回から、夫は二回目から連続で参加している。国内自治体間の反核・平和への取り組みの連携を強めるため、九八年に平和自治体協会を設立した。最初は五都市のスタートだったが、今では三県を含め四十の自治体が加わっている。

 ―具体的な活動は?

 電子メールで、平和に関する各自治体の取り組みを紹介したり、一年に四回機関紙を発行するなどの取り組みをしている。招かれて原爆被害の実相を語ることもある。

 ―活発に活動されているようですが、フランス全体での核軍縮への取り組みはどうですか。

 米ソ冷戦時代の一九八〇年代や、包括的核実験禁止条約(CTBT)締結前の九五年に、フランスが南太平洋のムルロア環礁で地下核実験を再開したころに比べると低調だ。でも一方で、八四年に私たちがフランス語で出版した被爆者の体験本の一部が、昨年、高校の国語教科書に採用されるなど、今までと違った広がりを見せている。

 ―米国のブッシュ政権が打ち出している米本土ミサイル防衛(NMD)構想やCTBTからの脱退の可能性などに対するフランス政府の反応は?

 シラク大統領は、CTBTからの脱退はむろん、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約に抵触するNMDの配備にも明確に反対の意思表示をしている。フランスにいてはがゆく思うのは、NMDやCTBTなどに対して、日本の自己主張が全く見られないことだ。

 ▼核開発の疑念も

 ―米政府にあまりにも同調し過ぎると…。

 そう。被爆国の日本だからこそ、より説得力をもって忠告できるはずである。逆にそうしないことで、フランスをはじめ欧州連合(EU)諸国などから「日本は近い将来、核兵器を開発、所有するのではないか」との疑念を抱かせている。最近の教科書問題や小泉首相の靖国神社参拝問題など、アジア近隣諸国への姿勢とも併せて考えるとき「日本は核武装することはない」と、フランス人らに自信を持って言えない状況が生まれている。

 ▼信頼失う結果に

 ―非核三原則をうたっているとはいえ、日本は日米安保条約によって米国の「核の傘」に入っています。

 国連などで被爆国として核兵器廃絶へのイニシアチブを取ることと、核の傘の下にいることの矛盾を、今一度日本人一人ひとりが深く問い直してみる必要があると思う。それを避けていては、いつまでもあいまいな姿勢を続けることになり、結局、アジア諸国のみならず、世界の多くの国から誤解を生み、信頼を失う結果につながっている。

 ―核抑止論に根ざしたフランスの核兵器信仰も強いものがありますね。

 確かにその通り。でも湾岸戦争やコソボ紛争などで使用された放射能兵器である劣化ウラン弾が、ある意味でその抑止信仰を既に崩しているとも言える。劣化ウランの微粒子を体内に吸入した米国、フランスなど多国籍軍の多くの兵士や、イラク市民らが白血病などにかかり、広大な土地が放射能で汚染されている。

 ―通常兵器として扱われている劣化ウラン弾も、核兵器の一種であると…。

 そう。ドゴール大統領の下で、原爆開発に力を注いだガロア将軍は、最近劣化ウラン弾の危険を訴え、使用禁止を強く求めている。これからは、CTBT発効に向けての強力な取り組みとともに、劣化ウラン弾の製造・使用禁止を求める運動も同時に取り組む必要がある。

21世紀 岐路に立つ軍縮