(01.08.05)

社説 非核の新世紀を

 在外援護の強化図れ

 在外被爆者救済の道が開き始めている。在韓被爆者の郭貴勲さん に対する被爆者援護法の適用を認めた大阪地裁の判決後、国は控訴 したものの「在外被爆者に関する検討会」を開催。坂口力厚生労働 相も「何らかの措置を」と前向きだからだ。戦後五十六年、遅きに 失したが今こそ、抜本的な在外被爆者の援護策を確立すべきであ る。

 在外被爆者とは、日本という「国家」に翻弄(ほんろう)され続けてきた人た ちである。在韓、在朝被爆者の多くは戦前から戦中にかけて日本の 植民地政策に伴っての移住や、強制連行で広島、長崎に来て被爆し た。在北米、南米被爆者は戦前、戦後の棄民に近い日本の移民政策 そのものを人生に反映している。

 戦後、曲がりなりにも被爆者行政が実施されながら在外被爆者は 国によって差別され続けた。「国外に居住を移した被爆者には法律 上の援護の手は及ばない」。かつての厚生省の公衆衛生局長の通達 の背景にあったのは主権国家意識である。属地主義の原則を唱え 「行政法は日本国内においてのみ効力を有する」と主張し続けてき た。

 その「国家」に風穴を開けたのが大阪地裁判決である。被爆者援 護法は「人道的見地から被爆者の救済を図ることを目的にした法 律」で、在外被爆者の排除は人道的見地に反し法の趣旨目的に反す る―と断じた。主権国家意識から逃れられない国の主張を根底から 批判する画期的な判決だった。

 しかし、国はこれに対し一昨年三月の旧原爆二法(原爆医療法、 原爆特別措置法)をめぐっての広島地裁判決などを援用し、あくま で「法は国家の主権が及ぶ範囲で効力を持つ。被爆者であっても外 国居住者には適用を予定していない」と控訴した。旧法判決との整 合性を図るとはいえ、あまりにも形式主義的であろう。

 厚生労働省が把握している在外被爆者数は現在、韓国、朝鮮民主 主義人民共和国(北朝鮮)、北米、南米などに総数で約五千人。来 日し被爆者健康手帳を取得すれば無料で医療が受けられ、条件を満 たせば各種手当も受給できる。だが被爆者の高齢化は進み、来日で きる在外被爆者は限られてきているのが実態だ。

 先日、厚生労働省で開かれた「在外被爆者に関する検討会」は、 年内に結論を出す方針を決めた。論議を公開し、在外被爆者からの 聞き取りも予定するなど評価できる点も多い。国家によって翻弄さ れ続けた在外被爆者をこれ以上、国は放置するべきではない。在 韓、在朝被爆者が、なぜ被爆せざるを得なかったのかという一点を 肝に銘じ、明快な結論を出してほしい。

 アジアに対する日本の責任でもあるし、「民族、国境を越えても被爆者は被爆者である」―との明確なメッセージを発することが、日本の核廃絶の意思をより鮮明にするはずだからだ。


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