中国新聞
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パキスタンで反核・平和運動 フッドボーイ教授インタビュー
2002/02/27
力の支配 限界 理性取り戻せ

■南北間の経済格差根源 -テロとアフガン-

 ―世界中の人びとに衝撃を与えた米中枢テロをどう受け止めまし たか。

 罪のない人々を乗せた飛行機をハイジャックするだけでも許せな いが、世界貿易センター(ニューヨーク市)などに突入して、さら に多くの犠牲者を巻き込んだことは、どんな理由をもってしても正 当化できない。人類への犯罪行為である。

 しかし、一方でアフガニスタンでは、ウサマ・ビンラディンや彼 が率いるアルカイダ、さらにはタリバンの壊滅を目的にした米英軍 の攻撃によって、テロ事件よりもはるかに多くの一般市民が命を失 い、四肢を失うなどの犠牲になっている。

 その悲劇にアメリカ人の多くは無頓(とん)着だし、世界の人び との注意も十分に払われていない。力による制圧だけでは、テロ行 為を防止する根源的な問題解決にはならない。

 ―根源的な問題はどこにあると考えますか。

 貧困など南北間の大きな経済的格差をなくしていくことだ。イス ラム諸国ではなお、保守的で腐敗した一部の権力者によって支配さ れているケースが多い。米国など西側諸国はこうした支配層と結託 して利益を得ているが、このような構造を変えていく必要がある。

 ―宗教が利用されて人々を過激な行動に走らせるという問題も大 きいのではないでしょうか。

 非常に大きな問題だ。人びとは理性によって問題を見つめ、解決 しようとするよりも、狭隘(あい)な宗教的教義にとらわれて、そ れを「絶対の価値」と信じて人に押し付けたり、狂信的な行動を取 ったりする。パキスタンのイスラム原理主義者は、セクト間の抗争 を繰り返し、ユダヤ人の入植者は、パレスチナ人を先祖伝来の地か ら追い払い、インドのヒンドゥー原理主義者は、古代からのイスラ ムのモスクを破壊している。

 私たちは、非宗教的でヒューマニズムの精神に立脚しながら、論 理と理性によって問題を解決しようとしなければ、明るい人類の未 来は開けてこない。

 ―アフガニスタンには、タリバン政権に代わるカルザイ氏を議長 とする暫定政権が生まれ、新しい国造りを進めようとしています。 新政権をどう見ますか。

 ソ連と戦ったアフガン戦争時代に米国とパキスタンの支援で生ま れたタリバン政権が崩壊したことはいいことだ。音楽、映画、たこ 揚げなど禁止されていた庶民の娯楽が復活し、教育の機会など奪わ れていた女性の権利も戻ってきた。

 だが、カルザイ暫定政権の前途は決して容易ではない。彼自身、 アフガニスタンでよく知られた存在ではないし、まだ統制の取れた 警察も軍隊も行政機構もない。各地で軍閥たちが横行し、カブール から一歩外に出ると治安の保証もないというのが現状だ。

 ―治安回復がかぎを握っていると…。

 その通りだ。治安状態がよくならなければ、物資を運べない。日 本などからの援助金が有効に使われているかを監視したり、各国の 非政府組織(NGO)の人たちが現地で活動することすらできない からだ。

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