中国新聞
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パキスタンで反核・平和運動 フッドボーイ教授インタビュー
2002/02/27
力の支配 限界 理性取り戻せ

■緊迫 破滅と隣り合わせ -印パ対立の行方-

 ―九月のテロ事件後、インドとパキスタンの関係は極度に緊張を 高めています。一九九八年五月に両国が地下核実験を実施し、公然 と核保有国となったことが、互いに相手に対しより強硬な姿勢を取 らせているように思えてなりません。

 そう。今、この瞬間にも、両国は領有権をめぐって争っているカ シミールの実効支配線(暫定国境)だけでなく、国際国境において も百万の軍隊がフル装備で対峙(じ)し、一部で戦闘を続けてい る。

 核兵器を保有することで起きた最初の印パ戦争は、九九年五月か ら六月にかけてカシミールの山岳地帯カルギルで、パキスタン軍が インド支配地域へ侵攻して生じたものだ。

 ―七一年の第三次印パ戦争以来と言われるほど激しい戦闘で、双 方に多くの犠牲者を出しました。ただ、当時のパキスタンのシャリ フ首相は「カシミールのイスラム戦士がやっていることで、パキス タン政府は関与していない」と主張していましたね。

 しかし、実際はパキスタン軍が仕組んだものだ。当時、軍の指導 者は「われわれが究極の兵器を所有した以上、挑発的な行動を取っ てもインド軍は反撃できないはずだ」と踏んでいた。それは誤算に 終わった。

 逆にインドは、昨年十二月十三日に起きたイスラム過激派による インドの国会襲撃を「パキスタン政府の責任である」と主張して国 境へ大量の軍隊を動員し、カシミールでは支配線を越えたりもし た。

 今回の襲撃事件が、タリバンとの関係を絶ち、パキスタン国内の 過激派分子を大量に逮捕したムシャラフ政権に反対するグループが やった行為であることをインド政府は十分に知っていながらだ。自 国政府を困惑させ、印パ戦争を仕掛けることが彼らの目的なのだ。

 ―その挑発にインド政府が乗っていると…。

 そうだ。インドもパキスタンも、九月のテロ行為を契機に、カシ ミールをめぐって米国や国際世論を味方につけようと政治ゲームを やっている。そんな背後に「核抑止力」への過信がある。

 ―今回、自ら監督されて制作した「核の影に覆われたインドとパ キスタン」(35分)のビデオでは、原爆投下後のヒロシマの惨状シ ーンなどとともに、印パ間の核抑止力の脆(ぜい)弱さがイラスト を交えて分かりやすく説明されています。

 隣国である両国は、ミサイルを発射してそれが誤射なのか、核弾 頭による攻撃なのかを判断する余裕がないほど距離が近い。先制攻 撃後の第二撃が可能なように、ミサイルもあちこちに配備するよう になる。そうなると発射ボタンを押す指揮命令系統も、大統領や首 相ではなく、現場の指揮官の判断に頼らざるを得なくなる。

 それだけでも危険なのに、カシミールでは恒常的に戦闘を繰り返 している。こうした状況下では、いつなんどき判断を誤るか分から ない状態だ。

 ―しかも、今は外交官も互いに引き揚げて外交チャネルを閉ざし ています。バス、列車、航空機、船による両国間の行き来も途絶 え、民間交流もできない状態ですね。

 その通りだ。そうした中で、一月下旬にインドは核弾頭搭載用ミ サイル「アグニ」の発射実験に成功し、パキスタンに威圧を与えて いる。パキスタンもミサイル関連施設や核兵器工場はフル稼働とい った状況だ。核抑止力は何回かは働いても、一度間違えば取り返し がつかない。

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