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米テロ1年ヒロシマから



イラク査察再開、攻撃はテロ招くだけ 
米核時代平和財団代表 クリーガー氏に聞く
2002/11/20
krieger
「核兵器廃絶がどれほど困難な目標に見えても、ヒロシマは人類の未来のために決してあきらめないでほしい」

 広島市を訪問中の米国の反核平和運動の指導者で、カリフォルニア州サンタバーバラ市の非政府組織(NGO)、核時代平和財団代表のデービッド・クリーガー氏(60)に十九日、イラク問題などについて聞いた。クリーガー氏は国連や国際原子力機関(IAEA)によるイラクの大量破壊兵器に対する査察の重要性を説く一方で、米軍によるイラク攻撃を阻止するために、世界的な反戦運動の盛り上がりの必要性を強調した。
(編集委員・田城明)

 ■市民の犠牲に思いを

国連の安保理決議に基づくイラクの大量破壊兵器に対する査察が四年ぶりに始まろうとしていますが、状況をどう見ますか。

 戦争回避のためにも、査察が順調に進んでほしいと願っている。ブッシュ米政権は今、イラクの子どもたちや女性らすべての市民に、サダム・フセイン大統領の顔を重ね合わせ、あらゆる理由をつけて戦争を始めようとしている。一九九一年の湾岸戦争でもそうだが、実際に戦争が起きて犠牲になるのは、参戦した双方の若い兵士たちや、圧倒的多数の罪のないイラク市民だ。戦争は問題解決より、さらなる犠牲とテロ活動を誘発するだけだ。

 ▽米政府は二重基準

軍事力ではアルカイダのようなテロ組織は壊滅できないと?

 その通り。生死がはっきりしなかったアルカイダの指導者のウサマ・ビンラディン氏は最近、バリ島での爆破事件などに触れながら新たな攻撃を示唆するメッセージを発した。イラクの大量破壊兵器を問題にしながら、二百個にも及ぶと言われるイスラエルの原爆保有を黙認し、パレスチナ問題では一方的にイスラエルを支援し続ける米政府によるダブルスタンダード(二重基準)の政策の欺まん性をアラブ諸国民はみんな知っている。

仮にイラクが九一年の国連安保理決議に反して大量破壊兵器を開発していたとしても、米国は軍事攻撃をしてはならないと…。

 そうだ。こうした事態が起きても、米国は決して戦争手段に訴えてはならない。国連など国際社会の世論の圧力によって解決すべきだ。米国の中東政策をはじめ、世界の貧富の差などテロを誘発する根本原因を変えようとせずにイラク攻撃だけを仕掛けても、新たなテロ行為を招くだけだ。それはアメリカ市民らの犠牲にもつながる。

核時代平和財団は、反核運動が世界的に盛り上がった八二年に設立されました。当時の核状況と今の違いをどう分析していますか。

 米ソ冷戦時代の二十年前は、両国にコミュニケーションがないまま、東西ヨーロッパ諸国に中距離弾道ミサイルなどが大量に配備され、核戦争への危険が高まった。その危機意識を背景に欧米諸国や日本の市民の間で反核運動が高まり、やがて八七年に米ソ間で中短距離核ミサイル廃棄条約(INF全廃条約)が締結された。

 ソ連崩壊後は、当時のように地球規模ではないにしても、核戦争の危険という意味では現在の方がはるかに高い。カシミールの領有権をめぐって核対峙するインド、パキスタン両国、地下深くの司令部や武器弾薬庫を攻撃する米国による小型核兵器の開発・使用、テロリストによる核物質、核弾頭の保有と使用の可能性などがその理由だ。

 ▽欧米では反戦デモ

しかし、その危険性はまだ多くの人々に認識されず、反核運動は盛り上がりに欠けます。

 指摘の通りだ。が、昨年の9・11米中枢同時テロ後、一時は愛国心や報復戦争の空気で覆われていた米国では先月末に、ブッシュ政権のイラク戦争に反対してワシントンDCやサンフランシスコなどで十万人以上が参加して反戦を訴えた。私の住む人口約九万人のサンタバーバラでも、最初は百人ほどだったデモが今では千人を超すほどに増えている。

 イギリスやイタリアなどヨーロッパ各国でも、八二年以来最大規模の反戦デモを展開している。こうした動きは、直接的には準備が進む米英によるイラク攻撃への反対行動だが、参加者の意識には反核の願いも込められている。

 ▽動きが乏しい日本 

そうした動きの乏しい被爆国日本は、あなたの目にどう映っていますか。

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)による日本人の拉致事件問題や核開発問題などに関心が奪われているという点を差し引いても、日本で反戦・反核運動が盛り上がらないのは不思議である。今年五月末の福田康夫官房長官の非核三原則見直し発言に象徴されるように日本人、とりわけ政治指導者の記憶から広島・長崎の被爆体験が消えつつあるのではないか。  

日本人として何をすべきですか。

 日本人が世界に対して果たすべき最も重要な役割は、戦争否定のうえに立った非核世界の構築に貢献することだ。決してブッシュ大統領の顔色をうかがうことではない。原爆投下によって地上で起きた多くの被爆者の犠牲と惨状を忘れてはならないように、イラク戦争によって起きる罪なきイラク人の犠牲にも思いをはせるべきだ。そうすればおのずと市民の間に反戦への行動が生まれ、ブッシュ政権とそれに協力しようとする日本政府への圧力をかけることにつながるだろう。










■プロフィル■
デービッド・クリーガー 1942年3月、カリフォルニア州ロサンゼルス市生まれ。68年ハワイ大学で博士号(政治学)取得。サンフランシスコ州立大助教授などを経て、82年に核時代平和財団を創設し、代表に就任。核兵器廃絶を求める世界のNGOのネットワーク「アボリション2000」で、中心的な役割を果たす。著書に「偶発的核戦争の防止」など。

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