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在ブラジル被爆者7人、広島県と国提訴 '02/8/1

 被爆者援護法に基づく健康管理手当の支給が、ブラジル帰国を理 由に打ち切られたのは不当として、バストス市の向井春治さん(72) たち現地の被爆者七人が三十一日、国や広島県などに不支給分計約 一千百万円の支払いを求め、広島地裁に提訴した。

 三月に訴えを起こした在ブラジル原爆被爆者協会の森田隆会長 (78)に続く第二陣。代理人弁護士によると、ほかにも数人が提訴を 準備している。

 訴状によると、向井さんは爆心から約一・三キロ、当時の広島市舟 入幸町にあった工場で被爆。一九五五年に移住した。九九年六月に 来日した際、運動機能障害と診断されて被爆者健康管理手帳の交付 を受け、九九年七月から五年間、健康管理手当の受給資格を得た。

 ところが県は、七四年の厚生省通達に基づき、ブラジル帰国のた め日本から出国したことを理由に、九九年八月分以降の手当支給を 打ち切り、二〇〇二年七月分までの百二十三万円余が支払われてい ない。

  原告側は「厚生省の通達は被爆者援護法などを根拠にしておらず 違法」と主張。広島市や長崎市で被爆したほかの六人とともに、不 支給分約二百万円〜八十五万円の支払いと、受給資格の確認などを 求めている。来日した向井さんは、記者会見で「同じ日本人なの に、海外の被爆者は差別されている」などと訴えた。

 厚生労働省と広島県原爆被爆者援護室は、いずれも「訴状を見て いないのでコメントできない」としている。

 向井さん以外の原告は、サンパウロ市、森田綾子さん(77)▽同、 細川照男さん(74)▽同、石橋フユ子さん(84)▽サンベルナルド・ド ・カンポ市、向井昭治さん(75)▽パラプーア市、山県アキ子さん (70)▽ゴイアニア市、横山敏行さん(71)

 ■「被爆者として認めて」病気への不安訴え

 ブラジル在住の被爆者七人が、被爆者援護法に基づく健康管理手 当の支給などを求めて広島地裁に提訴した三十一日、治療のため広 島市内に一時帰国している向井春治さん(72)は、七人の原告を代表 して「日本人として、被爆者として、認めてほしい」と訴えた。

 向井さんは午前十一時、弁護団や支援者らに囲まれ、緊張した面 持ちで地裁へ。訴状を提出した後、近くの広島弁護士会館で会見し た。

 「私の家はサンパウロから六百キロ離れていて、成田に着くまで 四十時間くらいかかった。この移動は若い人でも大変。みんな同じ ように被爆し、病気を不安がっている。分かってもらいたい。ほか には何もありません」と声を詰まらせた。

 励ましに駆けつけた同級生の吉岡幸雄さん(73)=広島市南区仁保 =は「気の毒に思う。政府はお茶を濁す程度の援護ではなく、海外 にいても外国人でもきちんと援護法を適用すべきだ」と話した。

 原告の一人で、向井さんの兄昭治さん(75)=サンベルナルド・ド ・カンポ市=は電話取材に対し、「広島で生まれた人間として寂し い思いがある。こうでもしないと思いを聞いてもらえない」。細川 照男さん(74)=サンパウロ市=も「日本では被爆者と認めているの に外に出るとだめなんておかしい。ブラジルで日本の被爆者同様に 治療を受けたいと願うのは当然のこと」と訴える。

 在ブラジル原爆被爆者協会(百五十三人)の森田隆会長(78)は今 年三月、同様の訴訟を先がけて起こした。森田さんは「私に続いて もらえるのはうれしいが、本当はみんな裁判なんてしたくない。日 本政府にもう少し、在外被爆者に対する思いやりがあればと思いま す」と話していた。

【写真説明】緊張した面持ちで広島地裁に入る向井さん(手前)


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