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特 集

2003.6.6
(1) 却下通知  機械的に因果認めず

 集団訴訟の原告になる決意をした人の多くが、示し合わせたかのように同じ場所に、鉛筆やマーカーで線を引いている。「原子爆弾の放射線に起因しておらず、また、治癒能力が原子爆弾の放射線の影響を受けてはいない」。A4判一枚の通知書。厚生労働大臣名で届いた原爆症認定申請の却下通知だ。

被爆者相談所の渡辺所長(右)に、訴訟への思いを語る重住さん

 「なぜだめなんか、せめて個別に具体的に理由を教えてほしい」。広島県加計町に暮らす重住澄夫さん(75)がつぶやく。

 胃がんで申請

 昨年七月、胃がんで認定申請したが却下され、今年一月末に異議を申し立てた。集団訴訟への参加を決意させたのは、ほかならぬその却下通知の文面だった。他の被爆者にも、ほぼ同じ言葉が書いてあると聞いた。それぞれの被爆体験を持ち、違う病気で申請しているはずなのだが…。

 「私だけの問題じゃない。今の国のやり方を根本から変えたいんよ」

 広島工業専門学校(現広島大工学部)一年だった。爆心地から二キロ、広島市千田町(中区)の教室内で被爆した。その日のうちに爆心地に近づき、十日市町にあった自宅、近くの本川小学校へと両親を探して回った。自宅の下敷きになった父は即死。母も八日後に死亡した。一緒に被爆した同級生に、おう吐や脱毛の急性症状が現れた。

 重住さんは五十九歳で(喉頭(こうとう))がんを患い、五年間放射線治療を受けた。昨年五月、胃を三分の二切除した。再発を恐れ、通院を続ける。

 国の評価疑問

 中区大手町のビルの一室。広島県被団協(金子一士理事長)被爆者相談所に、重住さんはしばしば通う。今回の集団訴訟の支援窓口を務める渡辺力人所長(77)に、さまざまな相談を持ちかける。

 ここ数年、認定申請した被爆者のうち十人以上が結果を待たずに、あるいは認定されたことを知らずに亡くなったという。渡辺所長が朱色で「死亡」と記したこの人たちの申請書類つづりも、「生きている者が頑張らなくては」と重住さんの決意を後押しする。

 原爆症の認定は、「DS86」と呼ばれる方式に基づいて申請者の被(曝(ばく))線量を推定し、病気が放射線に起因するかどうかが判断される。渡辺所長は「放射線の影響を過小評価している」と感じている。例えば重住さんにしても、あの日、被爆したうえに爆心地近くを歩き回った。それは考慮されているのか、いないのか・。素っ気ない却下通知は、何も伝えてくれない。

 壁を崩したい

 この四月、厚生労働省が被爆者からの異議申立書など十一通を紛失する事件も明るみに出た。異議を棄却された女性に届いた厚労省の謝罪文にはこう記されていた。「(棄却は)申立書が現存していないことが原因」

 重住さんは訴える。「壁をこじ開けたい」。原告団長を務める決意も固めた。

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