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特 集

2003.6.7
(2) 起因性  近距離被爆 判断に違い

 「原爆で苦しんだ人生を否定された気分だ」。広島市中区に住む無職男性(70)はそう言ってシャツを脱ぎ、まっすぐ伸びない右腕を示した。「どうして放射線に起因していないと言えるのか」。原爆が刻み付けたケロイドが、生々しく残る。
「国はどうして、原爆のせいでないと言えるのか」。ケロイドを見せる男性

 放射線白内障

 昨年九月、男性は原爆症の認定を申請した。病名は「放射線白内障(原爆白内障)」。

 認定されるにはまず、けがや病気が放射線に起因していることが求められる。同時に、治療を要する状態であるかも問われる。

 ケロイドは原爆の影響だと分かりやすいが、男性は皮膚移植手術を受けて治すだけの踏ん切りがつかない。だから、原爆白内障で申請した。

 添付した意見書で眼科医は「原爆以外に相当量の放射線は受けていない」と起因性を明記した。手術して視力は回復したが、その後も治療で通院していることも記した。

 それでも認められなかった。今年三月末、厚生労働省から届いた却下通知は「起因性はない」との内容だった。しかし、理由の説明はなかった。

 中学校から動員され建物疎開作業に行く途中、爆心地から九百メートルの水主町(現中区加古町)の畑で、頭や腕を原爆に焼かれた。黒い異物を吐き続けた。何カ月後かはもう思い出せないが、頭と右目を覆ったガーゼを外した時、視力は〇・〇八に下がっていた。

 その後も、白血球数異常、肝炎、胃かいようと病気続き。視力は回復しないと思っていた。だが五年前、眼科医が両眼に、原爆白内障特有の症状である「後嚢(こうのう)下(か)混濁」を見つけた。

 やはり、原爆白内障での申請を却下され、その後の訴訟を経てやっと認定された人がいる。「全国原爆被爆教職員の会」会長を務める石田明さん(74)=安佐北区。一九七六年、広島地裁が下した石田さん勝訴の判決は、当時の原爆医療法を「国家補償の側面も有する」と判断したことでも知られる。こう説く。

 差わずか150メートル

 「放射線の人体への影響は十分解明されておらず、起因性についての医師の判断、治療効果の可能性が、医学的に否定できない限り、認定すべきだ。同一症状で一部は認定、一部は却下という取り扱いは慎むべきだ」

 石田さんは爆心地から七百五十メートルの電車内にいた。却下された男性は九百メートルの畑で直接、放射線と熱線を浴びた。いずれも、生き残ることさえ難しいと言われた近距離被爆。起因性に大きな差があるとは考えにくい。

 「納得いかないことは訴え、正すべきだ」。石田さんは男性に会った時、そう励ました。男性は「あの言葉に支えられた」と打ち明ける。

 だが裁判に訴える決意をした今も、堂々と名乗りを上げることには抵抗を感じる。ケロイドをさらす覚悟はある。しかし、「認定でもらえる手当が目当てか」と周囲の誤解を招くのが怖い。「提訴したら名前を明かします」。別れ際には、きっぱり言った。

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