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2005/6/18

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 第二次世界大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺の歴史を伝えるホロコースト記念館(福山市御幸町)が、七月で開館十年を迎え、今月十八日には記念講演会を福山市で開く。子どもたちへの教育をテーマに掲げる平和学習の拠点には、国内外から七万人が訪れた。今年は戦後六十周年。重みを増す記念館の展望と課題を探る。
(小島正和)

  「考え行動」中高生実践


 「信じている。人間は本来良いものだって…」「あの窓の向こうに平和な世界があるはず」。ホロコースト記念館隣の聖イエス会御幸教会(福山市御幸町)の礼拝室に十二日、若者たちのせりふが響いた。


  同世代の感性で表現

 若者たちは記念館のボランティアグループ「スモールハンズ」の中高生七人。十八日に福山市である「記念館十周年のつどい」で、「アンネの日記」を基にした平和劇を演じる。この日は最後の練習だった。
 ナチス・ドイツの迫害を受け、ユダヤ人強制収容所で十五歳の生涯を終えたアンネ・フランク。オランダ・アムステルダムの隠れ家で「世界と人類のために働きます」などと将来の夢や理想をつづった日記は、今も世界中で読み継がれている。
 スモールハンズが結成されたのは一九九七年。現在は小中高生約三十人が加わる。劇はメンバーが「同世代の感性でアンネの思いを表現したい」と発案。尾道市の神愛教会の河野純子さん(42)らの指導で、四月から隔週で練習を重ねてきた。
 「隠れ家でひっそりと暮らすなんて私には耐えられない」とアンネ役の尾道東高一年浜本都起子さん(16)。「だから、逆境の中で希望を失わなかったアンネを尊敬する。彼女の姿を通じて平和の大切さを感じてほしい」
記念館10周年行事で発表するアンネの劇を練習するスモールハンズのメンバー
記念館10周年行事で発表するアンネの劇を練習するスモールハンズのメンバー


  120ヵ所に苗木を贈る

 アンネの思いは、花に姿を変えて継承されている。日記に感銘を受けたベルギーの園芸家が開発した「アンネのバラ」。花の色が数日間で赤、黄、ピンクと変わるのが特徴。七二年、親交のあったアンネの父、故オットー・フランクさんから大塚信館長(56)に苗木が贈られた。
 スモールハンズが九八年から接ぎ木をし、学校やバラ園など国内外の約百二十カ所に贈った。府中高一年藤本明日美さん(15)は「バラを見た人が平和について考える。普及は大事な役目」と話す。
 「アンネに同情するだけでなく、平和を実現するために何かをする人になってほしい」。大塚館長がかつてオットーさんから受け取った言葉は、記念館に根付いている。

ホロコースト記念館の大塚館長




記念館長の大塚氏に聞く

 ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺をテーマにしたホロコースト記念館の大塚館長=写真=に、十年の成果と今後の役割について聞いた。

 ―この十年をどう評価しますか。

 平和をどう伝えるか、模索の十年だった。何万冊の書物を読むよりも充実した日々だった。学校関係者、被爆者ら予想以上の来館があり、共感してくれた人の感想文や手紙に勇気付けられた。被爆を体験した広島の地だからこそ、十年続けられたと思う。

 ―何を中心に訴えてきましたか。

 ホロコーストは人間に共通するテーマ。心に潜む差別や偏見を打ち破らなければ平和はできない。アンネ・フランクの父、故オットー・フランクさんはかつて「平和をつくるにはまず隣の人を思いやることが必要」と言った。日ごろの小さなことの積み重ねが、実は一番大切だ。

 ―子どもの教育に力を入れていますね。

 ホロコーストでは百五十万人もの子どもが犠牲になった。現代の同世代の子どもたちに戦争の愚かさや命の尊さを感じてほしかった。来年オープン予定の新館は、研修スペースを拡充するなど教育機能を高める。戦争の惨状を強調するだけでなく、人間の「善の部分」にも焦点を当てたい。

 ―今後の役割をどう考えていますか。

 戦後六十年たった今なお、世界では戦火が絶えない。通信機器は発達しているが、人や国家の視野は逆に狭くなっているようだ。自己の正当化をやめれば、争いの多くは解決できると信じる。相手を思いやる心を育てていきたい。

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