中国新聞社
祈りの響き<1> 原爆献水<動画あり> '10/7/26

 ▽境内の滝 心地よく

 しぶきがきらめき、岩肌のシダを揺らす。高さ7メートルから勢いよく、水が流れ落ちる。石の地蔵が並ぶ境内の一画。セミの合唱をかき消す水音が、心地よく体を包みこむ。

 広島市西区己斐上の団地の奥に立つ「滝の観音教順寺」。山の伏流水がつくる境内の滝は8月6日、平和記念公園(中区)である平和記念式典に先だち、原爆慰霊碑に手向けられる「原爆献水」の採水地でもある。水は毎夏、ボランティアがくみ、碑前に運ぶ。

 「住民の思いも届けてもろうとる」と感謝するのは、近くの村上清さん(87)。あの朝、路面電車で職場に向かった叔父は今も行方が分からない。自らも入市被爆し、水を求めながら亡くなる人びとを目の当たりにした。

 村上さんは近所の仲間と寺に日参し、清掃や本堂の改修を手掛けている。「周囲の環境を守って、原爆犠牲者に名水をささげ続けたい」(写真・坂田一浩、文・田中美千子)

    ◇

 被爆から65回目の夏を迎えた広島市は、平和を願う音があふれている。水の調べ、木のざわめき、鐘の音…。身近にある「祈りの響き」に耳を傾けた。

 動画はこちら

【写真説明】柔らかな弧を描いて流れ落ちる教順寺境内の滝。木漏れ日を浴び、水しぶきが輝く



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