▽命の賛歌 風に乗り
広島市南区比治山本町の鶴見橋東詰に、1本のシダレヤナギが立っている。その脇を車や市内電車が行き交う。信号の変わり際に一瞬、耳を澄ましてみる。風になでられた葉が波のように揺れ、さわさわと音を立てた。
幹は根元から二手に分かれる。葉のない方は、樹齢100年とされる老木だ。原爆にも耐え抜いた。長年、この木を世話してきた樹木医の堀口力さん(65)=西区=は「灰色だった被爆後の広島に緑を芽吹かせ、人びとの心を支えた。戦後復興のシンボルだ」とたたえる。
戦後も台風などの試練を乗り越えてきた老木だが、2007年9月、ついに枯死が確認された。葉を茂らせているのは、被爆後に同じ根から生えた幹。高さは5メートルを超えた。命を継いだ青葉が風にそよぐ音は、命の賛歌のようにも聞こえる。(写真・坂田一浩、文・田中美千子)
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【写真説明】風にそよぐシダレヤナギの青葉。根元から右側に伸びる幹は、あの日の閃光(せんこう)を目撃した
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