中国新聞

タイトル 第1部 それぞれの思い 
 
 3.即応予備自衛官

有事の出動も覚悟
 ―家業の傍ら招集訓練
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 広島県安芸郡海田町にある陸上自衛隊海田市駐屯地。底冷えのす る演習場で広島市佐伯区、佐藤賢一さん(35)が重さ七キロの機関銃 を手に「ほふく前進」を繰り返す。本業は市内のデパートに出店す る食肉販売会社の常務。即応予備自衛官としての義務である招集訓 練の真っ最中だった。

  年に5回延べ30日

  階級は三等陸曹だ。訓練は一年間に延べ三十日。佐藤さんは五回 に分けて消化する。この日は本年度最後の訓練で、駐屯地に四日間 泊まり込んだ。「店を空けるのは後ろめたかったが、何とか頑張れ ました」。厳しかった表情が店で見せる笑顔に戻った。

 即応予備自衛官は民間の仕事を持ち、招集されれば現役と同じ身 分で第一線の現場に出る。冷戦終結を受けた陸自のスリム化計画の 中で生まれた。

 海田市駐屯地に司令部を置く第一三旅団も昨年三月、師団からの 縮小に伴い、常備の戦力でつくる三つの普通科連隊に加え、即応予 備自衛官中心の「第四七普通科連隊」を創設。佐藤さんら二百六十 二人が翌月、第一期として入隊した。

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即応予備自衛官として招集訓練をこなす佐藤さん(左)
(広島県海田町の陸上自衛隊海田市駐屯地)

 その後、従来からの「予備自衛官」に登録。だが、年に五日の簡 単な訓練だけ。任務も後方支援にとどまるのが物足りなかった。 「何か満たされなかった。新しい制度に迷わず手を挙げた」と言 う。

  装備に国際化実感

 現役時代からすれば、十二年ぶりの本格訓練。昨年九月、大山で の山登り訓練で、体力の衰えを痛感した佐藤さんは「これではつい ていけない」と、自宅でトレーニングを続け、三カ月で十キロやせ た。

 かつて得意だった機関銃を手にし、「自衛隊が国際流になったと なあ」とも実感した。旅団に配備されたばかりの機関銃は、米軍な ど北大西洋条約機構(NATO)軍仕様の五・五六_口径に替わっ ていた。演習などでの米軍との相互提供も可能。ヘルメットなどの 個人装具も、外国の軍隊並みに迷彩色が増えていたからだ。

  震災救援の姿刺激

 佐藤さんは「せっかくの訓練を災害救援で役立てたい」と願う。 五年前の阪神大震災で、かつての仲間が救援活動で活躍しているの に刺激されたからだ。昨年六月二十九日、自宅のある佐伯区でも豪 雨災害が発生し、その思いは強まっている。

 だが、出動は災害派遣だけではない。具体的にはまだ決まってい ないが、防衛庁長官の命令で有事での防衛出動や治安出動へ招集さ れ、敵と向き合うことも想定されている。

 佐藤さんも朝鮮民主主義共和国(北朝鮮)の動向などをニュース で見て緊張することがある。「有事は恐い。あってはならんこと。 政治的な平和解決が一番。だが、万一の際は、市民を守るために戦 う覚悟はできています」

 独身。車のトランクには、いつ招集があってもいいように、身の 回りのものを積み込んでいる。

 《即応予備自衛官》陸自定員の削減を打ち出した一九九五年の防 衛大綱に基づき、戦力を補うため九八年に創設。全国で一万五千人 が定員。九州地区に続き九九年、一三旅団などにも導入された。現 在は陸自OBの予備自衛官の中から募集。年間六十万円の手当てを 支給。雇用主にも一人につき年五十一万円が支給される。


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