中国新聞

タイトル 第1部 それぞれの思い 
 
 4.おおすみ艦長

「いざ海外」常に緊張
 ―国際情勢 敏感に反応
地図

 広島県安芸郡江田島町の沖。砕氷艦「しらせ」(一一、六○○ トン)を除く艦船では、海上自衛隊最大の輸送艦「おおすみ」(八、 九〇〇トン、乗員百三十一人)が停泊中だった。「いつ、どこに行け と命じられるか分からない艦。今年も緊張状態が続きますよ」。艦 長の一等海佐、成影務さん(52)は強調した。

 震災のトルコにも

 一万七千キロ離れたトルコ地震の被災地へ―と昨年、神戸で三百 四十戸の仮設住宅を積み込み、訓練を兼ねた無寄港の遠洋航海をし た体験はまだ生々しい。

 派遣部隊は呉基地所属の「おおすみ」と掃海母艦「ぶんご」( 五、七○○トン、乗員百六十人)、横須賀基地所属の補給艦「とき わ」(八、一五○トン、乗員百二十人)の三隻で編制。九月二十三 日、当時の野呂田芳成防衛庁長官らに見送られて神戸港を出港し た。

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「おおすみ」甲板に立つ成影艦長。新ガイドラインの下、役割はさらに増す
(広島県江田島町沖)

 平均十八ノット(時速三十三キロ)で航行。洋上給油を受けなが ら二十三日かけてエジプトのアレクサンドリアに寄港。三日後、ト ルコのハイダルパシャへ到着した。海自では初めて、中東までの無 寄港、高速航海記録となった。

 「途中、故障も出たし、荒波で揺れ苦労した。だが海外でも長期 間活動できる船だ、とアピールできた」と成影さんは自負する。

 日米防衛協力のための新指針(ガイドライン)関連法で、新たに 海外での自衛隊艦船による邦人救出が可能になった。千人単位で人 員を運べ、医療施設も整った「おおすみ」には今後、「周辺事態」 での出動の機会も加わりそうだ。

 規模を4倍に拡大

 鹿児島県出身。子供のころから外国航路の船員にあこがれ、世界 地図を眺め回した。一九六六年、防衛大に入学。当時は自衛隊の艦 船が海外で堂々と行動を展開するなど、考えられない時代だったと いう。

 九一年の湾岸戦争―。政府は機雷処理のため掃海部隊をペルシャ 湾に派遣した。その翌年、国連平和維持活動(PKO)協力法が制 定され、自衛隊は海外派遣の回数を重ねている。

 呉基地を母港に九八年三月に就役した「おおすみ」は、こうした 時代の変化を象徴する。海外派遣を前提に、規模を従来の輸送艦の 四倍に拡大。ヘリコプターが着陸できる広い甲板を持ち、米軍と同 型の上陸用のエアクッション艇(LCAC)も搭載している。

 「操艦に喜び実感」

 護衛艦「くらま」、補給艦「とわだ」など成影さんは艦長歴が長 い。米軍との共同演習やロシアへの自衛艦としての初の公式訪問な ど海外経験もある。それを買われ、昨年四月、「おおすみ」の二代 目艦長に。「関心があった艦で自分の力を生かせることがうれしか った」と言う。

 トルコの帰路、シンガポールに立ち寄り、艦を公開すると、千五 百人の日本人が集まった。新ガイドラインに基づく邦人救出という 「おおすみ」の新しい役割は、国内より知られていると実感したと いう。

 成影さんは「最近は、世界の災害や紛争などのニュースに、どう しても敏感になりますよ」と言う。「おおすみ」は十八日、今年初 の航海となる日本近海での演習に出発した。

 《おおすみ》PKO協力法を受け「海外で通用する輸送船」とし て五百三十億円で建造。LCAC二機を搭載、陸自隊員三百人の居 室、診療所並みの医務室(九病床)もある。海外派遣に反対する市 民団体が就役に抗議したほか、江田島町にLCAC整備場ができ、 住民も騒音へ強い懸念を示した。昨年十二月に二番目の同型艦が着 工され、呉への配備が有力視されている。


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