中国新聞

タイトル 第3部 ルポ・自衛隊は今 
 
 6.災害派遣

自治体との連携強化
 救援態勢 細かく規定

 「午前五時三十分、強い地震が発生した。広島市中心部は震度6 強だ。『非常勤務態勢』を発令する」

 六月七日、広島県安芸郡海田町にある陸上自衛隊海田市駐屯地体 育館では、災害派遣を想定した「防災指揮所演習」(図上訓練)が 大がかりに行われていた。

地図を前に、大地震を想定した災害派遣のシミュレーション をする第一三旅団の隊員たち(6月7日、広島県海田町の陸上自衛 隊海田市駐屯地)

 作戦会議室、通信室、臨時県庁…。それぞれを想定したブースを 設置。被害状況を書き込んだ地図の前では、知事からの災害要請を 前提に、傘下の部隊を臨機応変にどう動かすか、シミュレーション が続いた。

 その後ろでは、指揮所演習に初めて招かれた中国五県の防災担当 者十四人も見守っていた。「自衛隊が、ここまで綿密な訓練をやっ ていたとは…」。そんな驚きの声も漏れた。

 大震災がきっかけ

 陸自隊の広島県内での大震災対処計画は「中災5号」のコードネ ームで呼ばれる。一三旅団の上部組織である中部方面隊(司令部・ 兵庫県伊丹市)が九六年に作成した。六千人を超す犠牲者が出た前 年の阪神大震災がきっかけだった。

 そこでは、海田市駐屯地の部隊が駐屯地近くの活動に手をとられ る場合に備え、中国地方以外の各地の部隊がどのようなルートで駆 け付け、地域を分担するかも細かく規定している。

 昨年九月。それまで内部資料の扱いだった「中災5号」は、概要 版が初めて広島県、広島市などに配布された。この日の指揮所演習 のほか、今年秋に県と協力して実施する実働訓練もこれが基本とな る。

 「災害の際にわれわれがどういう動き方をするか、自治体の側に もっと知ってほしい」。演習を指揮した石田尾範三郎旅団幕僚長は こう強調した。

 陸自の主要任務に

 阪神大震災から五年。陸自は「災害派遣」の役割を前面に打ち出 し、自治体との連携を本格化している。現在の防衛計画大綱で防衛 出動と並び、災害派遣が主任務となったからだ。

 昨年の6・29豪雨。藤田雄山広島県知事の要請を受け、海田市駐 屯地の主力である「第四六普通科連隊」が出動した。広島市佐伯区 五日市町上小深川の土砂崩れ現場では三日間に約二百五十人が捜索 に当たり、三人の遺体を発見。三月の旅団改編で人員減となった直 後にもかかわらず、災害派遣能力をアピールした。

 やりがい感じる場

 派遣の指揮を執った連隊第三科長の松村昭彦三等陸佐は振り返 る。「中隊単位で一日交代にしたが、どの中隊も『もっと行きた い。使ってくれ』と言った」。災害派遣は危険が伴うものの、防衛 出動を前提とした日ごろの訓練と比べ、隊員が地域への貢献を実感 し、やりがいを感じる機会でもある。

 ただ、ある陸自幹部は「災害派遣は、あくまで防衛出動の延長線 上だ。災害派遣の能力は同時に有事における防衛力でもある」と付 け加える。

 四六連隊では、緊急時に飛び出す三十人の初動部隊が毎日、日替 わりで編成され、目印としてひもの付いた黄色い警笛が渡されてい る。また、中隊ごとに災害派遣を担当する市町村を決めており、訓 練に支障がなければ、マラソン大会や夏祭りなどの行事に隊員が顔 を出している。それぞれの地域との結びつきを強めるためだ。


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