中国新聞

タイトル 第3部 ルポ・自衛隊は今 
 
 7.パイロット養成

国際貢献へ輸送機志願
 地味なイメージ返上

 「気象状態は問題ないと考えます」「燃料は…」。六月十五日、 境港市の航空自衛隊美保基地。パイロットを目指す「学生」の自衛 官二人が教官と飛行前の打ち合わせをしていた。滑走路へ移動し、 双発型ジェット練習機「T―400」をくまなく点検した後、訓練 フライトに飛び立った。

 美保基地の第四一教育飛行隊。国連平和維持活動(PKO)をは じめ国際貢献に派遣される「C―130H」などの輸送機や、災害 派遣で活躍する救難機のパイロットを専門に養成する唯一の部隊で ある。

T―400の訓練に臨む第41教育飛行隊の教官や学生ら。 今は訓練は中止されている(6月15日、境港市の航空自衛隊美保 基地)

 創設は五年前。空自隊のパイロット養成システムが変わり、戦闘 機を含め全体を養成する浜松基地のコースから輸送機などが分離さ れた。美保基地に置かれた理由の一つは上空が過密でなく、「訓練 空域」が確保しやすいからだ。

 「不可4回で失格」

 隊は約三十人の学生を抱え、実際の搭乗機種に分かれるまで九カ 月間の基本操縦課程を担当する。週三、四回のT―400のフライ トのほか、精巧なシミュレーターで緊急手順なども習得。気象、管 制、航空法規などもたたき込まれる。

 教官の一人は「日常評価で『不可』が四回重なればパイロットに なれない」。一人で操縦する戦闘機と違い、複数で動かす輸送機な どに必要な「クルー・コーディネーション」を体で学ぶことも欠か せない。

 空自隊の本来の任務は戦闘機を中心にした領空の防衛だ。しか し、自衛隊の国際貢献を定めた一九九二年のPKO協力法などを契 機に、PKOや難民救援などで、海外に出動することは珍しくなく なった。その主役として地味な存在だった輸送機にも光が当たって きた。

 「若い世代は海外での国際貢献の仕事にやりがいを感じている。 もちろん戦闘機の志願者は今も多いが、最初から、輸送機や救難機 を目指す学生もいる」と椿明彦飛行隊長は話す。

 貴重な経験後輩に

 教官の中野幹孝二等空尉は、そんな若い学生の身近な目標だ。二 十八歳の若さだが、九八年には小牧基地のC―130Hパイロット としてPKO活動が続く中東のゴラン高原や、自衛隊初の国際緊急 援助となった中米ホンジュラスのハリケーン被害の救援に、相次い で赴いた。

 昨年八月、希望して教官パイロットになった。「いずれ現場に戻 りたいが、今まで経験したことを後輩にも伝えたい」と話す。海外 での貴重な体験は折に触れ、話し聞かせている。

 共に二十二歳の学生たちに話を聞いた。樋口洋平二等空曹は「で きればC―130Hで世界に通用するパイロットになりたい」。ま だ数少ない女性パイロット候補の大西京子二等空曹は、主に国内輸 送を担う輸送機C―1の搭乗志望だが、「海外に行ける機会がある なら私も行ってみたい」と付け加えた。

 事故で訓練休止中

 だが現在は、訓練は中止されている。取材から十三日後の六月二 十八日、同じ美保基地のC―1が、訓練中に隠岐島近くの海上に墜 落。教育飛行隊の先輩である二十六歳の女性副操縦士を含む、五人 が殉職したからだ。

 教官や学生たちが事故をどう受け止めたのか知りたかったが、窓 口の基地渉外室は「事故に関しては現場の隊員の取材は一切、断っ ている」。ただ、学生たちは訓練再開のめどが立たないまま、安全 教育を受けて、待機しているという。


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