2000.1.26
 
新指針 身近に迫る「安保」
 

 日米安全保障体制が新しい時代を迎えた。日米防衛協力のための新指針(ガイドライン)関連法によって「周辺事態」の際の自治体、民間協力が求められるようになり、「地域と安保」の接点が今後、いやでも増すからだ。その中で、米軍に協力する自衛隊の役割変化も今、加速している。中国地方にある身近な米軍・自衛隊基地の現状と変化への動きを探った。
岩崎 誠
 ルポ最前線の島
 新ガイドライン

データマップ
 日本の主要基地
 中国地方の自衛隊・米軍の基地と部隊
米軍岩国基地
米軍秋月弾薬廠
海自呉基地
陸自海田市駐屯地
空自美保基地



在日米軍と自衛隊 進む協力体制
中 国 地 方
 
不安ぬぐえぬ自治体

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 中国地方には自衛隊や米軍の基地が、主なものだけで二十五カ所ある。自衛隊の前身となった一九五〇年の警察予備隊設置から五十年。基地の所在地はおおむね固定化している。だが、「周辺事態」での米軍への後方支援を明確にした新ガイドラインは、基地や部隊のありようを、少しずつ変えていくはずだ。

 これまでも中国地方が「有事」に無縁だったわけではない。朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争・・・。米軍はアジアの戦争に参戦するたび、岩国基地や秋月弾薬廠(しょう)などをフル回転させてきた。

 新ガイドライン関連法の周辺事態法九条は、物資輸送、港湾・空港使用、医療などで、自治体や民間の「協力」を明文化する。これまでと違い、安保に無関心だった住民にとっても、決して「ひとごと」では済まなくなる。

 米軍が求める「協力」の内容の一端が、九四年に核疑惑で朝鮮半島が緊迫した際、日本政府に提出した千五十九項目の「支援要求」からうかがえる。中国地方に関係しては「川上弾薬庫からの弾薬輸送に十トントラック百四十八台」「広弾薬庫の荷役支援に三十六人」の記述が見える。数字は具体的で細かい。

 ここに来て、米軍の存在を日本国民に慣れさせるためとしか思えない、行動も目立ってきた。

 岩国基地の北二・五キロにある山口県営岩国港。九七年十月以降、米軍輸送部隊が十一回にわたり、演習物資などを積み降ろしている。一般船舶並みに県港湾条例に従っていたのは二回目まで。その後は日米地位協定に基づいて一方的な入港を続けている。

 昨年十月には、境港に米海軍駆逐艦「クッシング」が入港した。「補給と休養が目的」というものの、山陰の港に米艦船が入ったことはそれまで一度もなく、あまりに唐突だった。

 「クッシング」の入港に伴って、境港市に足を運んだ米国のロバート・ルーダン駐大阪総領事はその後の十二月、広島市内の講演で「広島へ米艦船の寄港を希望している」と発言し、波紋を広げた。

 米軍と自衛隊の協力体制は先行して進んでいる。周辺事態で米軍が海上自衛隊に最も期待するのが、機雷の掃海分野。呉基地には一昨年、遠洋の掃海も可能とする大型掃海母艦「ぶんご」(五、六〇〇トン)が配備された。毎年二月、周防灘で合同掃海訓練も実施されている。

 米軍岩国基地に同居する海自基地には「テポドン」の発射情報のキャッチに貢献した電子戦データ収集機、それに妨害電波を発信できる電子戦闘訓練支援機もある。在日米軍に対する「電子戦」への協力も担うことになりそうだ。

 こうした米軍・自衛隊の協力関係をより強固にするのが新ガイドライン。これに対して基地を抱える自治体を中心に不安も広がっている。周辺事態法で求められる「支援」への具体的な内容やマニュアルなどが、いまだに不明確だからだ。

 広島、山口県など十四都道県でつくる「渉外知事会」、呉、佐世保など四市による「旧軍港市振興協議会」は昨年、政府に具体的な説明を求めたが、納得できる答えはなかった。政府が昨夏に発行するはずだった自治体向けの解説書も、まだ出ていない。



新ガイドライン
 

 日米安全保障条約を効果的に運用するため1976年に作成された日米防衛協力のための指針(ガイドライン)。その見直しは、96年4月の日米安保共同宣言で打ち出され、九七年九月に「周辺事態」での米軍支援を定めた新ガイドラインがまとまった。周辺事態法、艦船による海外での邦人救出を可能にする自衛隊法改正など関連法は99年5月、自自公の賛成で成立。周辺事態法は8月に施行された。「周辺」の定義はあいまいにされた。

 周辺事態法では、自衛隊の「後方地域」での武器弾薬・人員の輸送や燃料・食料の提供、遭難兵の捜索などを定め、自治体や民間の協力も明記した。特に、空港・港湾の使用や救急搬送は自治体の「一般的協力義務」とした。どういう場合に拒否できるのかなどで自治体の不安が高まり、疑問が政府に殺到した。




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