2000.1.26
 
不審機警戒 24時間態勢
萩市見島の空自第17警戒群
 
隊員170人 日常は病人搬送も

Photo
朝鮮半島と向き合う萩市見島のレーダーサイト。基地内からの撮影は許可されなかった
 萩港から四十五キロの日本海に浮かぶ萩市の見島。高速船が島に近づくと、白いドームが次第に大きくなってきた。航空自衛隊の誇るバッジ・システム(自動警戒管制組織)を構成する、二十八カ所のレーダーサイトの一つ。天然記念物・見島牛で知られるのどかな島のもう一つの顔である。

 朝鮮半島からは二百キロ足らず。不審機などに二十四時間、警戒の目を光らせる安保最前線の「国境の基地」だ。通常の基地とは違い、取材許可が出るまで一カ月近くかかった。

そびえるアンテナ

 正式には第一七警戒群。島の西側、標高百八十メートルの丘陵を占め、敷地十一万平方メートル。米軍のレーダー施設を一九六〇年に引き継いだ施設で、他基地や航空機と交信するアンテナ群もそびえる。

 「新ガイドラインになろうと、任務に変わりない。離島の厳しい勤務だが、最前線としてのやりがいはある」。百七十人の隊員を束ねる司令の本木宏明二等空佐(52)は強調した。

 担当空域をかすめる機影をとらえ、不審機の領空侵犯の可能性があれば、空自機のスクランブル発信へつなげる―。昼夜を問わずレーダーをにらむ「監視管制隊」は二十五人だけ。その六倍近い隊員が機器のメンテナンス、給食、警備などで支えている。

 朝鮮半島有事も想定される中で、本木司令は基地の置かれた位置をこう表現する。

 「旧ソ連機へのスクランブルがしょっちゅうだったころの方が、もっと緊迫感があった。旧式が多い北朝鮮の戦闘機は、さほど恐れていない。むしろ潜水艦などで近づかれ、この基地がゲリラ的な攻撃を受ける可能性もある。それを防御するための体制づくりを急がなければいけない」

米軍の特殊機器も

 レーダーサイト内部の取材は最初から許可されなかった。「サイトの形状が敵に知られるとまずい」と、外からカメラを向けるのも止められた。やむなく基地外から撮影した。

 島には米軍の「軍事機密」の機器があることも知った。味方機に電波で指示を出す特殊なシステムだという。「勝手に修理できない。メンテナンスだけでなく、機密保持が徹底されているかどうかも米軍が点検に来る」と本木司令。取材に訪れた前日が、横田基地のスタッフによる年に一度の点検日だった。

 ただ、隊員たちの島の生活はのどかだ。八割近くが独身か単身赴任だが、釣り以外は娯楽もない。

 「休日はインターネットをするか、体を動かすぐらい」。二年前からレーダーのメンテナンスを担当する電子小隊長の貞島久嗣二等空尉(26)は笑う。独身者の島での勤務は五、六年。女性と知り合う機会はほとんどなく、若い隊員たちの間では決して「人気職場」とはいかないようだ。

新年度の縮小対象

 隊員が任務への手ごたえを感じられるのが住民への貢献である。「災害出動」として基地のヘリポートから急病人やけが人を年十回前後は本土に運んでいる。人口千三百人ほどの離島で自衛隊はなくてはならない存在だ。

 防衛庁は新年度、レーダーサイト二十八カ所のうち二十カ所を、より規模の小さい「警戒隊」に改組する方針を決めている。見島もその一つだが、具体的にどう縮小されるのかは明らかにされていない。




Back