NPT会議の行方


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(中)
被爆国の苦渋


核抑止認め軍縮説く 説得力もつか「包括提案」

 小渕恵三前首相の入院、森喜朗政権の誕生へと政界が揺れた今月 三日から六日にかけて、札幌市で二十人規模の小さな国際会議が開 かれていた。 

■積極姿勢が目立つ

 カザフスタンなど五カ国の非核地帯化を目指す「中央アジア非核 兵器地帯国連札幌会議」。札幌が開催地になったのは、新たな非核 地帯の誕生は核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた格好の 明るい話題、と読んだ日本政府の誘致活動があったからだった。

 ただ、そんな思惑をよそに会議は、既存条約との優先順位をめぐ る文章表現で合意できないまま閉幕。「最終合意のはずだった。見 通しが甘かったか」。初日にあいさつのため札幌に飛んだ外務省の 服部則夫軍備管理・科学審議官は、思わぬ結末に表情はさえない。

 だが、こうした試行錯誤も含め最近、「被爆国」日本の核軍縮・ 不拡散分野への積極姿勢が目立つ。

 例えば、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准促進。昨年十 月、ウィーンで開かれた批准促進会議は高村正彦前外相が志願して 議長を務めた。直後に米上院の批准否決という暗いニュースがあっ たが、その後も河野洋平外相や高村氏、さらに橋本龍太郎前首相ま でも特使に起用し、未署名・未批准国を個別に回る説得外交を展開 した。

 成功例も生まれつつある。数千万ドルのCTBT「加盟料」を理 由に渋るバングラデシュには、日本は経済援助の実績を絡めながら 粘り強く説き、批准にこぎつけたという。

 ■米かばうとの見方

 積極姿勢の背景には、なおざりな核軍縮が国際社会の失望を買っ ている同盟国・米国をかばうため、との見方がある。内にあって は、インド、パキスタンの核実験後、自民党有力議員から「被爆国 として核大国に遠慮するな」と背中を押されたいきさつもある。

 今回のNPT再検討会議でも政府は、八項目にわたる包括的な核 軍縮提案をする構え。CTBTの批准促進をはじめ、交渉が行き詰 まっている核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約は「二〇〇三年 までの妥結」と明確な期限付きで提示し、各国への根回しも始め た。

 ■「迅速」廃絶は棄権

 ところが、昨年末の国連総会で日本は、核兵器国に「迅速」な廃 絶を迫る新アジェンダ連合諸国が提案した決議を棄権した。その一 方で、「究極的」核廃絶を求める決議を提案し、採択された。「究 極的」と「迅速」との間で、態度が変わるはなぜか―。

 昨年十一月の衆院外務委員会。棄権の理由を聞かれた河野外相は 苦渋の表情を見せた。「靴の裏じゃなく、足の裏のかゆいところを 直接かきむしりたい。しかし、留飲を下げるだけでは効果は薄いの ではないか。この辺り、私の心に葛藤(かっとう)があったとご理 解いただきたい」

 外相は結局、核兵器国との対立ではなく、理解を得ながら段階的 に核軍縮は進める、という従来通りの結論を選んだ。根底には、日 本の安全保障は米国の「核の傘」で守られている。だから核の即時 否定はできない―との認識がある。

 核抑止を肯定しつつ核軍縮を説く被爆国の言葉は、再検討会議で どこまで説得力を持つのだろうか。

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