NPT会議の行方


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廃絶への道標


核の非正当性を追求 依存弱める「質的軍縮」 を

人類滅亡まであと何分

 二十四日から米ニューヨークの国連本部で始まる核拡散防止条約 (NPT)再検討会議が、将来の核軍縮目標に何ら合意できず、失 敗に終わると世界の核秩序はどうなるか―。専門家らが想定する最 悪のシナリオは、主に二通りある。

 ■最悪の2シナリオ

 【ケース1】 「核大国が軍縮の約束を守らないのなら、自分たち も核開発を自粛する約束を破っていい」と考える国が出てくる。そ うした国が核実験を強行し、対立する周辺国も核武装で対抗する。 NPTは形がい化し、インドとパキスタンのような核軍備の「ドミ ノ」現象が各地に広がる。

 【ケース2】 核武装の意思はないものの、NPT体制の将来を見 限る国が出てくる。集団で条約から脱退し、例えば「核兵器禁止条 約」といった不平等ではない条約を追求する国家グループを形成す る。しかし、核保有国がただちに核兵器禁止条約に同意するとは考 えにくく、世界秩序はやはり混乱する。

 ■崩壊の危うさ常に

 核が実際に拡散するかどうかの違いはあるが、二つの筋立ては、 世界の百八十七カ国も加盟しながら、崩壊の危うさと常に隣り合う 条約だということを示す。そして、崩壊を免れる条件は、核保有国 の核軍縮努力や将来の約束を非核保有国がどう評価するかである。

 ロシアは再検討会議直前になって第二次戦略兵器削減条約(ST ART2)や包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准へと動き始 めた。ロシア以外の動きは鈍いものの、最悪のシナリオは回避した いとの核保有国側のサインであろう。

 「問題なのは核兵器の数ではなく、それを使用するというドクト リン(教義)であり、政策である」。今年二月、川崎市であった平 和団体の講演会で、市民サイドに立ったNPT監視役で著名な英国 のレベッカ・ジョンソンさんが、非同盟諸国陣営の主張を代弁し た。「核兵器を非正当化することではじめて核軍縮が始まる。核へ の依存を弱める『質的核軍縮』が必要なのです」

 国連のアナン事務総長も二月初め、軍縮専門家の会合でこんな演 説をした。「将来にわたって核兵器に依存するとの核ドクトリンを 核兵器国は繰り返し述べる。それを聞くとがっかりする」

 ■「傘」ありきを脱却

 人類はなぜ核兵器と縁を切ることができないのか。二人の発言は 同じテーマを問い掛ける。明治学院大の高原孝生教授(国際政治) も言う。「核の傘を当然視する風潮は怖い。核兵器は違法であり、 それに依存しない道を追求しなくては、人間や社会の倫理性は保て ないのではないか。意識的に核兵器の威信を低下させていく必要が あり、NPT再検討会議をそのための場として活用したい」

 核の拡散を防ぐ目的のNPTはそもそも、人類や国家は核兵器を 持ちたがる、との前提に立った条約であり、「核の時代」である二 十世紀の産物である。新しい世紀への節目に開かれる再検討会議 は、そんな「悪魔の兵器」と手を結んだ人類と時代のありようを問 いかける。
(江種則貴)

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