NPT 核大国とNACの対立鮮明に

'00/5/9 中国新聞地域ニュース

核保有国と新アジェンダ連合との対立が焦点となっているNPT再検討会議(国連本部)  【ニューヨーク8日江種則貴】米ニューヨークの国連本部で開催 中の核拡散防止条約(NPT)再検討会議は週明けの八日朝(日本 時間八日深夜)、三つの主要委員会で論議を再開し、四週間の会期 の後半に入った。これまでの論議で、特にメキシコやブラジルなど 核兵器廃絶を主張する新アジェンダ連合(NAC)諸国と米ロなど 核保有国との意見対立が鮮明になり、最終合意が可能かどうか、予 断を許さない情勢。各陣営の主張から論点を整理した。

文言解釈で大きな溝

 ● 疑いのない

 「unequivocal(疑いのない)」という言葉が、会議 のキーワードに浮上している。NAC、核保有国の双方が核兵器廃 絶に言及して用いるが、そのニュアンスは異なる。NACは核保有 国に対し、廃絶へ「疑いのない約束」を求め、今後五年間で核軍縮 交渉を加速し、NPT六条が定めた保有国の義務を確実に実行する よう要求した。

 核保有国も一日の五カ国共同声明で、被保有国の行動を受けて、 核兵器廃絶という「究極的な目標」と、全般的な軍縮条約交渉につ いて「疑いのない約束」をする、と強調した。

 NACはすぐさま「期待外れ」と反論した。保有国の声明は、核 兵器廃絶に究極的という言葉を挟み、核兵器以外の軍縮を持ち出し てごまかしている、というわけだ。

 「NACは、自分たちの主張が最低ラインであり、最終文書に盛 り込まれない限り合意しないとの強い姿勢を貫く」(交渉筋)と見 られている。「疑いのない」の文言をどう取り扱うかは、核兵器廃 絶へ会議全体の姿勢を測る物差しになりそうだ。

 一方、非同盟諸国はインドネシアなどを中心に「期限を切った核 兵器廃絶」などを主張しているが、南アフリカなど非同盟側の主要 国が今回はNAC陣営で行動していることもあって、核軍縮をめぐ る攻防はNAC対保有国に絞られた形。NACが、核兵器国が非核 兵器国を核攻撃しない「消極的安全保障」に法的拘束力を持たせる よう主張すると、米国が「無駄な時間の浪費」と切り捨てるなど、 対立は根深い。

 ● 維持と強化

 米本土ミサイル防衛(NMD)構想を進める米国と、これに反対 するロシアや中国という核保有国同士の対立の構図が、会議冒頭の 各国の代表演説でもクローズアップされた。

 しかし、保有国の共同声明は、米国がNMDを推進すれば改定が 必要となる弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約について、「核 軍縮の基礎」であり、その「維持と強化」に努めると強調。保有国 間の結束をアピールして見せた。

 とはいえ、共同声明は「米ロ間の対立を解消する内容ではない」 というのが多くの専門家の見方。維持や強化の言葉は、どのように も解釈できるからだ。

 例えば核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約について、中国は 「宇宙の軍拡と関連して議論すべき」とNMD反対を念頭に置いた 主張を変えず、NMD問題という保有国間の火種は依然くすぶり続 けている。

日本の調整焦点

 ● 非公式協議

 日本は会議の冒頭、山本一太外務政務次官が、包括的核実験禁止 条約(CTBT)の早期発効など八項目を提案。核軍縮を扱う第一 主要委員会で合意のたたき台となる議長作業文書に反映されるな ど、日本提案は最終合意を目指すための基本線として各国に認知さ れつつある。

 会議は三主要委員会が十二日、討議内容を本会議に最終報告する 予定で、公式日程上は今週(第三週)がヤマ場。

 しかし、重要な問題は最終週に持ち越され、バーリ議長の下での 「非公式な協議」に主要場面は移る、との見通しが一般的。核保有 国とNACの中間的な立場である日本、カナダなどの調整が焦点と の見方が出ている。 NPT再検討会議から帰国し、NGOとの連携の必要性を指摘する森元助役(広島市役所)

 ▽「NGO連携強化を」広島市の森元助役帰国会見

 米国ニューヨークでの核拡散防止条約(NPT)再検討会議で核 兵器廃絶を訴え帰国した広島市の森元弘志助役は八日、市役所で記 者会見し「米ロなど核兵器保有国に廃絶の道筋を示させるには、非 政府組織(NGO)との連携を強め、国際世論を盛り上げる必要性 を感じた」と強調した。

 森元助役は一日に米国政府代表、二日にロシア政府代表とそれぞ れ会い、核兵器廃絶に中心的役割を果たすよう求めるとともに、七 月の主要国首脳会議(沖縄サミット)の際、大統領が広島・長崎両 市を訪問するよう要請した。しかし両国とも自国を正当化するよう な発言に終始した、として「私たちの思いは理解してもらっていな いと率直に感じた」と振り返った。

 一方、原爆展開催についてカナダなど複数のNGOから問い合わ せがあるなど各国NGOとの交流は進んだ。秋葉忠利市長が再検討 会議に参加しなかったことについては、「長崎市長は世界平和連帯 都市市長会議の会長市としての私の立場を斟酌(しんしゃく)して くれ、予定していた行動はできたと思っている」と話した。

【写真説明】
上=核保有国と新アジェンダ連合との対立が焦点となっているNPT再検討会議(国連本部)
下=NPT再検討会議から帰国し、NGOとの連携の必要性を指摘する森元助役(広島市役所)


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