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たゆまず歩む 地域とともに 中国新聞

「再生 安心社会」

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第1部 模索

2.あふれる情報

−地域での選別が必要−

 「児童が帰宅途中、見知らぬ男から声を掛けられた」「中高生くらい、シルバーの自転車」「不審者を見かけたらすぐに一一〇番を」…。

 大阪府警が一月から始めた「安(あん)まちメール」(安全なまちづくりの略)。ひったくりや不審者など、府警が確認した情報を携帯電話に速報配信するサービスだ。

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「安まちメール」で配信している犯罪発生場所などの情報を確認する大阪府警の担当者(大阪市中央区の大阪府警本部)

 現在の登録者は約十七万九千人。発生地域や受信時間帯も個別選択できるため、発生場所付近の重点的なパトロールも可能になる。大阪府鶴見区の市民団体、榎本青色防犯パトロール隊隊長の木村武士さん(67)は「機動力が増した。多い時は一日七、八件あったひったくりも激減した」と効果に胸を張る。

▽監視の目を強化

 十六歳未満に対する強制わいせつ事件はサービス開始前から35%減った。府警安全なまちづくり推進室の平井公雄室長は「情報を多くの人が共有し監視を強めたことで、かなりの犯罪が食い止められたのでは」とみる。防犯に関する、府民の貴重な情報源として育ちつつある。

 広島県警も木下あいりちゃん事件を受け、昨年十二月からホームページで子どもの被害情報の公開を始めた。保護者への携帯メールによる連絡システムも、県内公立小の45%にあたる二百五十七校で導入されている。

 事件以降、こうした情報網を通じ、県警には不審者の通報などが急増している。今年は月平均三十三件。事件前より四割近く増えた。

▽「不審者」扱いも

 だが、あふれる情報のマイナス面もある。親切心で子どもに声を掛けた大人が「不審者」として通報されるケースも。地域のきずなを深めようとする善意ですら、素直に受け止められない状況が広がりつつある。

 こうした中、山口市の良城小は、不審者情報を学校側で一度精査して保護者にメール配信することを決めた。

 児童が被害に遭いやすい手口や、命の危険が予想される事態に絞り、単発の声掛けなどは除外した。「情報にメリハリをつけないと緊急性が薄れる」と同小は判断した。

 ネット社会の到来で、誰もがある程度の情報やうわさを素早く入手できるようになった。だが、その信ぴょう性を正確に判断できるだけのネットワークが地域に根付いていないのも現実だ。

 広島大地域連携センターの匹田篤助教授(情報デザイン・メディア論)は「情報はリスク回避の大きな手掛かりになる」とする一方、「それが正しいかどうかの分析や選別を地域社会が行えることがやはり重要だ」と指摘する。

 「知らない人は不審者と思いなさい」。そんな風潮を根付かせないコミュニティーづくりを、どう構築するのか。地域の力が試される。(野田華奈子)

2006.11.24