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たゆまず歩む 地域とともに 中国新聞

「再生 安心社会」

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第1部 模索

3.足元の危険

−絶え間ない「点検」を−

 ひもを引っ張っても、防犯ブザーは鳴らない。児童は不安そうな顔をした。「電池切れじゃね」。そう言って業者は電池を交換し、児童に手渡した。

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点検した防犯ブザーを受け取る千田小の児童。4割近くが故障か電池切れだった(7月18日)

▽電池切れや故障

 七月中旬、広島市中区の千田小であったブザーの点検会。PTAが児童に配るなどした五百一個のうち、百八十六個が電池切れや故障で作動しなかった。「使わなければ電池は二年ほど持つが、安いのは一年程度」。業者の説明に、児童は意外そうな表情を見せた。

 落下したり、雨にぬれたりして壊れることもある。丹雅祥教頭は「普段から鳴らしてみるのが大切と痛感した」。

 子どもが犠牲になる凶悪事件を背景に、ブザーの普及は進む。広島市では児童の75%が持つ。しかし、ある児童は言った。「ブザーがランドセルの横にあると邪魔。ちょっとした弾みで鳴るので普段は持ち歩かない」。殺害された安芸区の矢野西小一年木下あいりちゃんは事件の日、ブザーを家に忘れていた。

 事件が起きやすい場所や、いざという時に逃げ込める場所を指し示す地域安全マップ。作成は全国の小学校の九割、広島県内でも公立小のほぼ100%で進んでいる。

 十月中旬、安佐南区の祗園小の児童の下校に付き添った広島経済大三年下垣嗣郎さん(20)は「薄暗い所や人通りが少ない所などが記してあり、見守りの参考になる」と言う。

 ただマップの中身はさまざまだ。提唱者である立正大の小宮信夫教授(犯罪社会学)によると、多くは過去の事件事故の発生分布図になりがちという。

▽110番の家を確認

 塀や建物に挟まれた路地裏、荒れ放題の草が周囲の視線を遮る空き地―。小宮教授は、犯罪者が入りやすく周囲から見えにくい「危険な場所」を知る必要性を強調。「マップづくりを通じ、子どもに危険回避能力をつけ、社会性を養うことが大切だ」と指摘する。

 広島市南区宇品東地区の青少年健全育成協議会は一九九八年から、「子ども110番の家」をスタンプラリーで回る取り組みを続ける。

 「子どもたちに通学路の状況を把握してもらい、大人とあいさつを交わすことで地域の連帯感も高まる」と石井健一郎会長(70)。保護者も一緒に参加し、ゲーム感覚で子どもに万一の備えを実践させる。「ラリーがなければ『110番の家』を知らない児童も多い。他人任せにしない工夫が大切だ」と石井会長は強調する。

 鹿児島市で昨年四月、中学生四人が一酸化炭素中毒死した洞窟(どうくつ)。そんな危険な場所の存在をほとんどの市民は知らなかった。

 足元の地域はどうなっているのか、持っている防犯手段は有効なのか−。大人と子どもが手を携え、絶え間なく点検する必要がある。(久行大輝)

2006.11.25