The Chugoku Shimbun ONLINE
たゆまず歩む 地域とともに 中国新聞

「再生 安心社会」

Index

Next

Back

第3部 司法の現場で

2.乖離

−更生 保護司頼み転機−

 広島市安芸区の森畠茂さん(70)は保護司を務めて八年半になる。元中学校校長。窃盗や傷害の罪を犯し、保護観察処分となった少年たち約二十人と接してきた。月二回、少なくとも三十分間は顔を合わせ、再び罪を犯さないように生活状態を見守る。

 「担当した少年が県外に就職してね。近況をはがきで知らせてくれた時はうれしかったなあ」。森畠さんはそう言って目を細めた。

 森畠さんのような保護司は全国に約四万九千人いる。法律の専門家ではないが、人生経験を生かし、相手と向き合う。一方、指導や監督にあたる国家公務員の保護観察所観察官は約八百人。公の占める割合はわずかで、保護司が無給のボランティアとして約六万人の対象者の社会復帰を支える。

 だが保護司の指導に強制力はない。面会を続けることもたやすくはない。「話しやすい環境づくりを心掛けているんですが…」。森畠さん自身、担当する五人のうち二人との面会が途切れがちだ。

▽3%は所在不明

 全国の対象者の約3%に当たる千数百人は、実は所在すらつかめない。所在不明のまま観察期間が終わることもある。

 二〇〇四年十一月に起きた奈良女児誘拐殺害事件。死刑判決を受けた犯人は保護観察期間中に再び罪を犯した経歴があった。〇五年二月には、愛知県安城市で仮釈放後十日もたたない元受刑者がスーパーで乳児の頭を突然刺し、命を奪った。

 保護観察に背を向けたまま、再び罪を犯した元受刑者らの姿が明らかになる。一方で、それにきちんと対応してこなかった国の姿勢にも厳しい批判が集まった。

 法務省が〇五年七月に設置した有識者会議では「法曹界でさえ更生保護を考えてこなかったのでは」「理念と現実が乖離(かいり)している」といった厳しい意見が続出。同十二月には、観察中の所在不明者情報を警察に通知する制度も始まった。

 広島保護観察所(広島市中区)の小田康弘保護観察官(36)はこうみる。「対象者が刑務所内でどれだけ頑張っても、社会に必要とされる実感が得られなければ更生は難しいのではないか」

▽「目標を持てず」

 〇六年六月の有識者会議の最終提言では、面会の義務化や保護観察官と保護司の役割分担の明確化などが盛り込まれた。しかし、小田保護観察官は「保護観察は自立を目指しての社会内処遇。それだけに不明者をゼロにするのは困難」と悩む。

 龍谷大矯正・保護研究センター(京都市)の石塚伸一副センター長は「意欲はあっても就職先がないなど、現状では犯罪者が目標を持って生きられない」と指摘。奈良事件で、被告本人が控訴を取り下げた経緯などを知ろうと、公判記録開示を求めた。「社会全体で明確な支援策を議論していかなければ、犯罪者の更生は成功しづらい」と訴える。

 これまで保護司の「善意」に支えられてきた保護観察。この制度がより実りを挙げるための努力を、国はどこまで果たしたのか―。森畠さんは言う。「保護司の仕事はやりがいがある。だが、次世代の人たちがこの仕事をどれだけ理解し、役割を引き受けてくれるか。今のままでは分からない」(野田華奈子)


保護観察 罪を犯し、少年院を仮退院、刑務所を仮出所した人や執行猶予中の人を対象に、通常の社会生活を営ませながら就職や定住を支援し、自立更生を促す制度。心理学や教育学などの専門知識を持った国家公務員の保護観察官と、法務相から委嘱された無給の保護司が連携、月に2、3回面会して指導、助言する。

2007.1.29