「孫育てのとき」

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第3部 日本に暮らして

2.小皇帝・中国 −「情緒重視」 揺れる思い

学力面が悩みの種


気遣いうれしいけど…

 中国・上海市から日本に留学し、広島市安佐南区の店員藤原一宏さん(49)と結婚した会社員崔〓さん(43)は、小学四年の一人娘ゆかりちゃん(9)の教育方針が悩みの種だ。「私立中学の受験に備えて塾へ通わせたいけれど、夫や義父母の意見は少し違うみたいで…」

 中国では、結婚、出産後も働き続ける女性が多い。崔さんも出産後二カ月で職場に戻った。夫が通勤がてら毎朝、約三・五キロ離れた団地に住む義母の博子さん(76)方にゆかりちゃんを預け、夜七時に迎えに行く。ゆかりちゃんはおばあちゃんの家に近い隣の小学校に通っている。

 「子どもはしっかり遊んで、豊かな情緒を養う方が大事」と考える祖母の博子さんは、孫娘と過ごす間、宿題以外の勉強を無理強いしない。「義父母の穏やかな人柄に触れ、優しい子に育った」と感謝しながらも、崔さんの不安は消えない。「私の子ども時代に比べて学習量が驚くほど少ない。これで学力が身に付くのだろうか…」

    ◇

 「一人っ子政策」の中国では、両親と双方の祖父母の六人の期待が一人の子ども(孫)に集まる。崔さんの上海の友達も子どもを学習塾や英会話教室、ピアノレッスンなどに通わせていた。祖父母が孫の送り迎えを務め、家に連れ帰ると、今度はちゃんと勉強をしているか、親以上に厳しく監督する。

 その反動か、勉強さえきちんとしていれば後は徹底的に甘やかすのも祖父母。中国では「小皇帝」と呼ぶ、過保護でわがままな子どもの増加が社会問題になっている。「中国に比べると、日本の祖父母は人情や思いやりを大事に考え、けじめのついた子育てをしてくれる」と崔さんは喜ぶ。

 ゆかりちゃんは最近、家族だんらんの最中にも自分から問題集を広げだした。そんな姿に崔さんは「中国のような詰め込み教育ではなく、娘が自分から塾に行きたい、と言うまで待とう」と思うようになった。

 広島市内に住む中国人女性(43)には日中両国に娘が一人ずついる。中国人の前夫、再婚した日本人男性との間に授かった娘たち。日中両国で働きながら育児を経験し、祖父母の「孫育て」観の違いを肌で知る。

 最初の出産は二十五歳の時。中国の国営企業に勤め、産後一カ月で復職した。同居の義父母も働いていたため、娘は職場内の保育所に預けた。娘が病気のときは義母が仕事を休んで介抱してくれた。女性の広島留学が決まると義母は「孫の面倒を見る」と早期退職。義父は毎晩二、三時間、小学生の孫娘に勉強を教えた。

    ◇

 「孫は任せなさい、あなたは社会的使命を果たしなさい、と義父母が応援してくれたのがうれしくて」。その後、前夫とは離婚したが、今も娘を育て続けてくれている義父母には感謝の気持ちでいっぱいだ。

 数年前に再婚し、二人目の娘を産んだ時は勝手が違った。復職するのに義母に娘を預けようとしたら夫が反対した。「母に迷惑は掛けられない。駄目」。実際、義母に頼んでも「子どもは母親が責任持って育てるものよ」と諭された。

 半面、日本の義父母の気遣いはありがたい。孫娘の誕生日には必ず贈り物を忘れない。野菜の栽培や収穫に誘ってくれたり、節分やひな祭りといった風習を話して聞かせてくれたり、情操教育を大事に考えている。

 「でも、子守とかには一線を引くみたい。日本には専業主婦が多い理由が分かった気がする」。仕事と育児との両立に手探りは続く。(藤井智康)

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2006.4.29