「孫育てのとき」

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連載を終えて

・・記者回顧・・

 祖父母世代の育児へのかかわりを追ってきた連載「孫育て」。試行錯誤しながらも育児に積極的に加わる多くの高齢者に出会った。団塊世代の大量退職期を迎え、元気で活発な高齢者が自由な時間を持つようになる。祖父母世代の知恵や力を生かすことは、地域ぐるみで子育てを支える社会を開く力になるのではないだろうか。担当記者が取材を振り返った。

■和食伝える好機に

 フルタイムで働く両親にとって、幼児や児童の食事は「工夫したいけど手が回らない」ものの一つと分かった。親(祖父母)の近くに住み、子ども(孫)に夕食を食べさせてもらう環境づくりは、安心して働く条件のようだ。

 孫の健康を考えた場合、薄味の和食が中心の高齢者の料理は体に良くてちょうどいいのでは−。「孫育て」のテーマにぴったりと思い取材を始めたところ、六十代前半より若い祖父母世代は、日本の伝統食をあまり受け継いでいないことが分かった。

 この際、孫の夕食を作る機会が巡ってきた祖父母世代の人には、手間をかけて作るおいしい和食をあらためて学び、日本の食文化を子、孫に伝承していけばどうだろうか。そう考えれば「孫育て」も悪くないと思う。(藤井智康)

■行政に後押し望む

 子育て支援は行政の課題。核家族での子育てで孤立しがちな若い母親向けのメニューは出そろってきた感があるものの、「孫育て」にがんばる祖父母向けのサービスはあまり見あたらない。そんな疑問から探して出合ったのが第五部で紹介した庄原市の試みだった。

 さすが高齢者の多い中山間地。祖父母の悩みやストレスの解消ができるよう、祖父母が参加しやすい子育ての交流の場づくりや講習会を開いていた。

 しかし、広島県に問い合わせると「ほかにそんな例は知らない」との回答。行政は縦割りになりがちだが、高齢者の生きがいづくりや健康管理と子育て支援の接点を見いだし、共働き家庭の子育ての重要なメンバーである祖父母に目を向けたサービスも考える時期に来ていると感じた。(平井敦子)

■担い手は社会全体

 取材を通じて一番印象に残ったのは、孫育てと自分の生活の両立に悩む祖母たちの姿だ。

 今どきの祖母たちは、従来の、縁側でお茶をすすっている「おばあちゃん」のイメージとは程遠い。仕事や地域活動、趣味に飛び回っている。「子育てや介護がようやく終わり、『これからが自分の時間』と張り切っていたのに…」という嘆きをよく聞いた。

 長時間労働に忙殺される父親と、子育てを一身に担う母親を支えているのは祖母たちであり、その役割は増している。

 少子化が進み、子育てを社会全体で支える必要性が高まっている。「孫はかわいい。でも、自分の人生も大事」。祖母たちの思いを生かすためにも、社会で支える新しい仕組みづくりに、男性も含めた祖父母世代が、積極的な役割を果たしてほしい。(西村文)

■口出しを慎む心得

 私たち団塊世代は、まさに孫育て真っ最中。「孫はかわいい」と甘い祖父母たちである。携帯電話の待ち受け画面には孫の写真があり、同窓会で見せ合うほどである。

 しかし、昔取ったきねづかでは務まらないし、娘や息子夫婦の育て方がある。「言いたいことは山ほどある。でも言ってしまえば折り合いが悪くなる。ここはじっと我慢」と口々にいう。

 子育て環境も育児観も時代によって変わってきているが、今の親の世代を育てたのは、疑う余地のないわれわれ団塊世代。「手助けはするが口は出さない」を心に、孫育てに携わるのが実態のようだ。祖父母たちは「孫たちが健やかに育ってほしい」と願いながら、温かいまなざしで体力が続く限り育児支援をしていることを、若い人たちも理解してほしい。(中村昭子)

■常識にとらわれず

 子育ての取材をしていると、育てる側の精神的な「余裕のなさ」に触れる。「こうでなくてはならない」と決めつけたりハウツー本に頼ったり。でも、日本の常識が世界の常識ではない。

 台湾の常識では、都市部で働く夫婦の多くは、幼稚園に上がるくらいの年齢まで子どもを実家に預けっぱなしにするという。「仕事を辞めるのはもったいないこと。親が元気なら孫をみてもらうのが当たり前」だから。インドやインドネシアでは、祖父母、親せきや地域の誰かがそばにいて、自然に支え合う風景が当たり前だそうだ。

 娘が国際結婚したある祖母は「もともと異文化だとお互い認め合っているから、うまくいくのかも」と話していた。「多文化共生」は、孫育てのキーワードでもあるのではないかと思う。(森田裕美)

2006.8.28