「孫育てのとき」

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孫育てに「祖母力」を −評論家・樋口恵子さんに聞く

 「高齢社会をよくする女性の会」理事長で評論家の樋口恵子さん(74)=東京都=は、かねて祖父母世代の社会貢献に注目してきた。九月上旬に、著書「祖母力」(新水社)を出版する樋口さんに、今どきの孫育てについてヒントを聞いた。(森田裕美)

人生経験 豊かな力


     自立妨げない距離保って

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「NO孫族も社会的祖父母力を発揮しよう」と話す樋口さん(撮影・室井靖司)

 ―なぜ今、「祖母力」なのですか。

 長い人生で経験を積んだ者には社会に貢献できる能力がある。私はこれを「祖母力(祖父母力)」と名付けた。日本では昔から、お年寄りと子どもの結び付きは強い。「桃太郎」や「花咲爺(じじい)」など多くの昔話にはおじいさんとおばあさんが登場し、血縁のない子どもや動物など、幼い命をはぐくむ姿が描かれている。実際に子どもに語って聞かせるのも祖父母たち。また少子高齢化の現代は、ほとんどの子どもの祖父母が健在で、共働き家庭も多い。孫育ての機会は着実に増えている。中でも平均寿命が長く、儒教的伝統でこれまで育児を担ってきた女性に注目が集まる。

▽感謝と罪の意識

 ―女性の就労を支える祖母も多いです。

 わたし自身、子育てでは母に全面的に依存してきた。母は老後を楽しむ間もなく、孫育てに追われ、私は感謝の気持ちとともにずっと罪の意識があった。当時は仕事と家庭の両立を支える「両立支援」なんて言葉もなく、「子どもを預けてまで働くのはわがまま」と見られた。働く女性に現在の地位があるのは祖母力あってこそ。この陰の力はもっと社会に評価されてしかるべきだ。一方で、社会は祖母力に甘えすぎないでと言いたい。

 ―社会的な子育て支援も重要ということですね。

 二〇〇四年、四十―七十歳代の祖母二十三人を面接調査した。私の母がそうだったように孫かわいさに自分のしたいことを我慢しているのではないかと予測していたが、六割が仕事を持ち、趣味や交遊に時間を使っていた。全員保育所をうまく活用し、総合的に見て欲求不満が少なかった。

▽「NO孫族」増加

 ―一方、孫育てには悩みやトラブルもつきものです。

 現代にふさわしい子育てのノウハウがないから。孫を見ずに亡くなる人が多かった戦前とは異なり、長寿国日本の祖父母はいまや孫の成長期、思春期も共に過ごす時代。時代に合った知識の入れ替えも必要で、孫へ干渉し過ぎたり、甘やかし過ぎてはまずい。孫の発育に合わせ、自立を妨げないよう距離を置かなくてはならない。また祖母力が出しゃばりすぎると、本来子育てに必要な「父力」、つまり父親の力をからめ捕ることにもなりかねない。

 ―孫のいない祖父母世代も増えています。

 私は「NO(ノー)孫(そん)族」と呼んでいる。私もそう。これからはNO孫族の潜在的祖父母力を社会でどう発揮するか探らねばならない。適性もあり、みんなが直接、育児にかかわる必要はない。孫の世代にきれいな地球を残そうと環境問題に取り組んでも良いし、戦争のない世界を引き継ごうと平和活動をするのも良いだろう。

 ―祖父母世代への期待は高まりますね。

 欧米でもにわかに注目を集めている。日本以上に女性の職場進出が進む半面、北欧をのぞけば保育所整備は進んでおらず、離婚家庭も増えているからだ。祖父母協会などの組織が子育てを支える動きも生まれつつある。高齢者が自立した生活をしながら次世代を育てるといった日本の昔話が描く祖父母像は、間もなく定年を迎える団塊世代の励みにもなるのではないか。

2006.8.28