中国新聞


夢を壊さないで 子どもと貧困 <下>
孤立無援


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電話相談会のPRをする「反貧困ネット広島」設立準備会のメンバー(17日、広島市中区本通)

 「友達が逃げていくんよ…」。中学二年の次女(14)がつぶやいた。広島市西区のある母子家庭でのこと。母(46)は足が不自由で働けず、月二十一万円の生活保護費が頼りだ。暮らしに窮する中で、四人の子どものうち一人は退学し、三人は学校に通わなくなった。

 次女に小遣いはない。友人と遊んでいても、ちょっとした買い物も難しい。友人同士がつながる携帯電話も持てない。「付き合いが悪い」と誘われなくなり、話題にもついていけないように。輪から少しずつ離れてしまった。

 一年前から学校を休みがちになった。今はほとんど通っていない。家が貧しいのをおもんぱかり、小遣いや携帯電話を求めたことはない。それがわかるだけに母はつらい。「かわいそうなことをした」。心から思う。

 生活費をほとんど入れない夫だった。二〇〇四年に離婚。残ったのは、子どもを養うために重ねた八百万円近い借金だ。自己破産し、以来、生活保護費だけで暮らす。食べ盛りの三人の食費を賄うだけで精いっぱいだ。

 「貧乏」といじめ

 長男(21)は専門学校の授業料が払えず退学。二年前に定時制高校へ進んだ長女(17)は休学し、体の不自由な母の代わりに家事を背負う。小学五年の次男(11)は「貧乏」といじめられ、たまに学校を休む。子どもたちは外出もせず、家で本を読んだり、音楽を聴いたりしている。

 夢はある。長女は将来、介護の仕事に就こうと考えている。母の面倒をみるために。次女は獣医師だ。だが、そのための蓄えはない。子どもたちがアルバイトをすれば、その分、生活保護費が減らされる。日々の暮らしが立ちゆかなくなる。

 いくらもがいても、苦境から抜け出せない―。「子どもの将来が心配。自立できるよう勉強させてやりたいんじゃけど…」。母の悩みは深まり、そして今、心をも病む。

 「最低限の生活を送る権利は、憲法で保障されている」。年の瀬、広島市の繁華街で訴えの声が上がった。「反貧困ネット広島」設立準備会のメンバーだ。

 低収入の非正規雇用者や多重債務にあえぐ人々を支援。二十四日の電話相談会では五十二人が苦悩を訴えた。事務局長の秋田智佳子弁護士は言う。「努力してもはい上がれない人がいるのが『今』。最低限のセーフティーネットすら十分じゃない」

 息潜めて暮らす

 困窮した人々は、息を潜めて暮らす。子どもまでもが社会ときずなを結べず、未来を閉ざされる。改革の名のもと「自己責任」を求めてきた社会の中で、人々の孤立は見えにくくなっている。(岩崎秀史)

(2008.12.27)

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