中国新聞


多胎育児で悩める親を救いたい
協会設立 支援の輪全国へ


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「縦割りで途切れがちな多胎育児支援を横につなぐネットワークが必要」と話す田中事務局長

 平成22年2月22日はツインズ・デー(双子の日)―。2が五つ並ぶこの日、多胎児の子育て支援に携わる全国の研究者やネットワーク、多胎育児グループの代表らでつくる初の法人組織「日本多胎支援協会」(事務局・東京都新宿区)が発足した。支援の必要性や、親の自助グループが行政や医療機関と連携する意義について同協会の田中輝子事務局長(48)に聞いた。

 ―多胎育児の悩みや不安、親が置かれた現状をどうみていますか。

 不妊治療の普及などの影響で、双子や三つ子の出産件数が増えている。多胎児の出産は早産のリスクが高く、親の心身への負担が重い。出産後は、複数の子どもを抱えて外出もままならず、地域社会からも孤立しがちだ。

 育児不安に加え、重い金銭負担もあり、出口の見えないトンネルにいるような思いを抱く親は多い。児童虐待予防の観点からも、不安を取り除く仕組みづくりが急がれる。

 ―従来の行政による支援では不十分だったのでしょうか。

 多胎児出産が増え始めた1990年代、全国各地で親の自助グループが誕生した。当時、行政側は、悩みを抱える親に対し、自助グループを紹介するだけにとどまることが多かった。グループ側の責任や負担ばかり重くなり、多くの親が疲弊していった。

 十分な支援が地域に届かない現状を変えようと近年、親が研究者や医師、行政職員と連携して課題解決に当たるネットワークが各地で生まれている。2005年7月の石川県を最初に、兵庫県、岐阜県、大阪府、東京都多摩地区で発足した。

 ▽活動情報を共有

 ―日本多胎支援協会を立ち上げた理由は。

 各地で活動するネットワークの情報を共有し、相互発信することで、支援の輪を全国に広げることを目指した。法人格を取得することで、一層、活動しやすくなると思う。

 ―親が、研究者や医師、行政職員と連携した活動の利点は。

 行政は個人情報を把握しており、誰にどのような施策を提供すればよいかというノウハウがある。多胎児の親は仲間として体験を語り、分かり合うことができる。医師には臨床経験、研究者には専門知識がある。それらを合わせればより幅広い支援が期待できる。

 ▽出産前から交流

 ―どのような実践例がありますか。

 東京都八王子市では、多胎育児の経験者が市職員と一緒に、妊娠中や育児中の家庭を訪問し、声を掛けている。岐阜県多治見市では、親のサークルが県立病院や県立看護大と「双子のプレパパママ教室」を開き、出産前から親同士の交流を図っている。

 ―全国組織の発足で期待することは。

 高リスクな多胎児の出産は、新生児集中治療室(NICU)のある大きな病院に長期入院するケースが多い。退院して家に戻る際、長期間、地域にいなかったためすぐに入り込めなかったり、行政の支援が十分届かなかったりすることもある。ネットワークや会員が各地に増えれば支援も可能になる。また、里帰り出産後、現居住地で育児をする場合、最寄りのネットワークで支援を引き継ぐこともできるだろう。(石川昌義)


クリック 日本多胎支援協会 多胎育児を支援するための情報提供や組織づくり、研修の企画を目的に設立した非営利団体。任意団体の「多胎育児サポートネットワーク」(東京都)を母体に結成した。多胎児の親に加え、行政、医療関係者や研究者が参加している。同ネットワークTel03(3269)2514。

意見交換を出発点に 廿日市
自助グループ、市とタッグ

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母子保健推進員(手前の2人)に、双子育児の体験を話すピーナッツフレンドの会員(16日、廿日市市新宮の市総合健康福祉センター)

 多胎児の親の自助グループと行政との連携が廿日市市でも動き始めた。乳児がいる家庭を訪問する母子保健推進員と双子の母親との意見交換会を出発点にし、互いにできることを模索している。

 「育児に疲れ、悩んでいた時、何度も自宅を訪ねてくれた民生委員の心遣いがありがたかった」。2月中旬、廿日市市であった会合。4歳の双子の母、沖室久美子さん(35)=同市=が振り返った。

 「『近所のおばちゃん』のおせっかいがうれしいんですよ」。集まった推進員14人と母親3人に笑顔が広がった。

 沖室さんは広島、廿日市両市で活動する多胎児の育児サークル「ピーナッツフレンド」の会員。乳児訪問を担う推進員との顔合わせは今回が初めてだ。

 「推進員が双子の家を訪ねても、これまではサークルのチラシを置くだけ。個人情報の保護もあり、『この家庭に双子がいる』とサークルに伝えることまではしていなかった」と廿日市市健康推進課の山岡和美保健師(47)。「互いに顔見知りとなり、活動を知ることで積極的にサークルを紹介できる。親の同意が前提にはなるが、推進員とサークル会員が一緒に双子の親の家庭を訪問できるようにしたい」と意気込む。

 ピーナッツフレンドの元代表三角京子さん(37)=広島市佐伯区=も「従来の活動は、会合への参加を待つだけで、受け身がちだった」と振り返る。「多胎児の親と知り合う機会が増えれば、活動も一層、活発になる」と期待を寄せる。

 両者を結んだのは、昨年10月に中区であった「全国多胎育児支援フォーラム」。参加した廿日市市の職員が、フォーラムを準備したピーナッツフレンドに声を掛けた。

 意見交換会では、自身の育児経験や望ましい支援の在り方を本音で語り合った。「次回は双子も連れてきて」「多胎児を妊娠中の家庭も訪問したい」…。連携の芽は少しずつ膨らんでいる。

(2010.2.26)

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