中国新聞


母親たちの挑戦<上> 伝える
なくさないで産科・小児科
現場へ要望 応援や感謝も


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どうやって自分たちの思いを伝えようか―。楽しく語り合いながら、できることを探る「すこやか育ち隊」の母親たち(山口市の井出崎さん宅)

 医師不足で地域の産科や小児科の縮小が相次ぐ中で、医療再生を願う中国地方の母親たちが「私たちにできること」を模索し、活動を広げている。母親たちでつくる二つのグループの挑戦を追った。(平井敦子)

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 今月4日、山口市。座卓を囲んでチラシを見ながら、母親5人が話し合っていた。「病院の先生や助産師さんに、感謝の気持ちだけでも伝えようよ」「ケアのどこがよかったんかも、分かってもらいたいよねえ」

 母親たちは2年前から活動している「すこやか育ち隊〜子どもの健康と地域医療を考える会」のメンバー。手作りチラシの内容はこうだ。「済生会山口総合病院から、産婦人科が撤退しようとしています。メッセージ緊急大募集!!」

 済生会山口総合病院(山口市)の産婦人科は、医師2人から1人態勢になる8月から、分娩(ぶんべん)予約を受け付けていない。山口大医学部(宇部市)の産婦人科医局の4月の入局者がおらず、産科医が不足する影響が及んだ。

 「産科がなくなるかも」とのうわさを聞き、育ち隊は反応した。今回の事態を母親や住民がどう受け止めているのかを伝えようと、3月に入って、チラシ5千枚配布を目標に、保育所やスーパーなど100カ所以上を訪問した。集まった声は今後、同病院や県に届ける。

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 市内には現在五つの分娩施設がある。同病院が年間約120件の分娩をやめても、市内で産めなくなるわけではない。ただ、同病院は自然な分娩を尊重し、母乳ケアが手厚いなど根強い人気がある。

 メンバーは「分娩できればどこでもいいわけじゃない。産む場所の選択肢が減るのはやっぱり残念」と口をそろえる。

 代表の井出崎小百合さん(42)は「今のスタッフに感謝の思いだけでも伝えたい。ケアの素晴らしさを今後の医療態勢にも引き継いでほしい」と力を込める。

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講演に訪れた小林教授(左)に小児医療への思いをつづったメッセージ集を手渡すひだまりの会のメンバー(庄原市内のホテル)

 地域住民の思いを届けようとする試みは、庄原市でも始まっている。市内の母親たちでつくる「庄原の小児医療を考えるひだまりの会」は昨年12月、メッセージ集を作った。

 「身近な小児科の存在が私たちの心の支え、子育ての大きな力です」「先生方に感謝して、私にできることは何でもしたい」…。母親31人が手書きで、思いの丈をつづった。手渡した相手は、市内に講演に訪れた広島大大学院の小林正夫教授(小児科)―。

 医師不足から庄原赤十字病院は2005年4月に産科を閉じ、分娩を休止。市内で唯一の小児科までなくなってしまうのでは。そんな不安が消えない。今年4月の人事異動を前に、医師派遣を担う大学医局に思いを伝えようとしたのだ。

 小林教授は「医療を支えようという気持ちがある地域は、医師も働きやすく、患者との信頼関係をつくっていきやすい」と好意的に受け止める。同病院小児科の金丸博医師も「多忙の中、治療して当たり前という態度をされるとしんどい。逆に感謝の言葉は励みになる」と語る。

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 二つのグループの母親たちに共通するのは、批判や要望にとどまらず、現状の良い面や感謝を伝えるなど医療現場を応援しようとする姿勢だ。

 ひだまりの会が活動拠点にするJR備後庄原駅舎内にある子育て交流施設「ひだまり広場」。子どもたちを遊ばせながら、母親たちはきょうも知恵を出し合う。「何かできることしたいよね」。活動は声の発信にとどまらない。

(2010.3.13)

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