中国新聞


母親たちの挑戦<下> 学ぶ
家庭で対処 和らぐ不安
小児科医の負担減後押し


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ひだまりの会が庄原市保健センターで開いた学習会。看護師(右端)と母親が顔と顔を付き合わせて学んだ

 「お子さんに39度の熱が出ても、必要以上に心配しなくていいんですよ」

 庄原市の市保健センターで2月、庄原赤十字病院の看護師が、優しく語り掛けていた。学習会のテーマは「子どもの発熱」。企画したのは「庄原の小児医療を考えるひだまりの会」の母親たちだ。

 体温の正しい測り方や体を冷やす「クーリング」の方法、急いで受診しなければいけない症状など、家庭での対処法を丁寧に説明していく。集まった母親33人は熱心にメモを取りながら聞き入った。

 質問も活発に出た。「解熱剤を使うタイミングに悩む」「微熱が続く場合はどうしたらいいの」…。看護師が質問に答えながら「不安な気持ちはよく分かりますよ」と声を掛けると、参加者の表情がぐんと和んだ。

 学習会の目的は、子どもの病気や家庭での対処法を学ぶことによって、母親たちの不安を軽減することだ。それは同時に、休日や夜間の不要不急の受診を減らし、小児科医の負担を減らすことにつながる。

 庄原市で、小児科があるのは庄原赤十字病院だけだ。医師2人が平日日中の勤務をこなしながら、交代で休日や夜間の救急対応もしている。母親たちは昨年8月、同病院の小児科医から話を聞き、その忙しさに驚いた。

 会の代表の一人、上村千幸さん(38)は「医師不足の中で頑張っている先生を、私たちも応援しなくちゃと思った」と振り返る。10月に会を設立し、12月から学習会をスタート。これからも2カ月に1回のペースで続けていくつもりだ。

 市も活動を歓迎し、サポートに乗り出している。会の目的や学習会の内容を伝える「ひだまりの会通信」(A4判裏表1枚)を1万6千部印刷。保育所や幼稚園を通じて子どもの保護者に手渡し、市内で全戸配布する。

 市保健医療課の西田英司課長は「医療問題の解決には、住民の力が不可欠。お母さんたちの自主的な活動を広く伝え、輪が広がれば」と願う。

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「ひだまりの会通信」(右)と、すこやか育ち隊がフリーペーパーで連載している「教えて!!ドクターQ&A」

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 母親たちが自ら、家庭でできる子どもの病気のケアや医療現場の実情を学ぶ―。そうした活動は、山口市の母親たちでつくる「すこやか育ち隊〜子どもの健康と地域医療を考える会」も柱に据えている。

 月1回の座談会では、医師や行政職員も交えて、医療の課題などを話し合う。昨年1月からは、母親たちを対象にした「ホームケア講座」を9回実施し、延べ約200人の参加を得た。

 さらに地元のフリーペーパー(約3万部発行)で、子どもの病気の質問を小児科医に答えてもらうコーナー「教えて!!ドクターQ&A」を連載。家庭で気軽に医療の正しい知識を身に付けてもらえるよう、多彩な仕掛けを試みる。

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 市小児科医会も連載への協力など活動をバックアップする。昨年4〜12月の市の休日・夜間急病診療所の小児科の患者2384人のうち、重症で総合病院に転送したのは44人で2%に満たない。小児科医が不足する中、緊急性の低い患者の受診を減らすことは喫緊の課題だ。

 市小児科医会の松尾清巧会長は「お母さんたちの活動は積極的で頼もしい。啓発は医師会だけでやるより、広い枠組みでやる方が効果も上がる」。母親たちは、医療崩壊に立ち向かう医師や行政の新たなパートナーになりつつある。(平井敦子)

(2010.3.14)

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