中国新聞


周防大島の民泊修学旅行 高齢者の元気引き出す


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涙を流して別れを惜しむ神奈川県の修学旅行生(2010年11月、周防大島町)

 【社説】多くのお年寄りが暮らす山口県周防大島町は、春の訪れとともに若い声に包まれそうだ。

 首都圏や近畿地方などの中学、高校17校の修学旅行先に選ばれた。今年末までに計3100人の生徒が島に渡り、大半は町が募った家庭に1、2泊する。

 都会の子どもたちが田舎暮らしを味わう体験型の修学旅行は、全国的にブームだ。周防大島町の場合、昨年は1校だけだったが、ここにきて予想以上の人気を呼んでいる。地域にも新たな活力をもたらすに違いない。

 ほとんどが広島市での平和学習とセット。島で用意するのは「民泊」と「家業体験」である。農漁業などを営む家庭に2〜5人ずつ分かれ、家族の一員のように過ごしてもらう。受け入れ先の多くは高齢者だけの世帯だ。

 ミカンやサツマイモなどを収穫したり、漁船に乗ったり。食事も特別扱いせず日ごろの献立を一緒に料理する。3年前から毎年訪れている神奈川県の私立中の生徒たちは、素朴な触れ合いに涙を流して別れを惜しんだ。住民側も「元気をもらった」と喜ぶ。

 町が誘致に取り組むきっかけは広島商工会議所などでつくる「広島湾ベイエリア・海生都市圏研究協議会」の提案だった。農漁業体験を組み合わせた新しいヒロシマ修学旅行のアイデアである。

 地元では最初「こんな島に修学旅行?」と半信半疑だったという。ところがあちこちの旅行会社を通じてPRすると反響が広がり、一気に数が増えた。被爆地で平和を学ぶ意義と民泊の魅力が、うまくマッチしたからだろう。

 山口県の規制緩和も後押しした。本来なら民泊といっても民宿同様、トイレや調理場などの改修が要るが、独自の要綱で普通の家でも受け入れOKになった。

 島の人口は5年間で1割減り、2万人を切った。ほぼ2人に1人がお年寄りで農漁業の担い手は年々減っている。久々の明るい話題といえる。

 修学旅行生がもたらす「経済効果」もさることながら、住民が元気を取り戻し、島のファンが増えるなら一石三鳥となる。実際、家族と一緒に再訪したいと伝えてきた生徒もいるそうだ。

 ことしの民泊予定は延べ4200日余りを見込む。200世帯の協力が必要だが、まだ7割ほど。町は呼び掛けを急いでいる。

 「体験型」誘致の先駆けとされる長崎県松浦、平戸両市では、年に1万人の受け入れ態勢があるという。来年以降の継続につなげるためにも、もっと機運を高めていく必要があろう。

 「負担が重い」と敬遠したり、他人を泊めることを嫌がったりする雰囲気も残る。自治会など地区ぐるみで迎える仕組みができれば、輪が広がるかもしれない。

 岩国市錦町や呉市倉橋町なども修学旅行の誘致を始めた。山口県のように民泊の規制緩和が実現すれば、受け皿づくりも容易になろう。周防大島をモデルに海や山を生かした交流を育てたい。

(2011.1.31)

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