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「いいお産 考」

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 第1部 産む人たちの思い

読者・医師の声から
− 帝王切開 これが実感 −

 一月にくらし面に掲載した「いいお産考」の特集と連載第一部「産む人たちの思い」に、帝王切開で産んだ七人からもメールが寄せられた。偏見から「楽でよかったね」と言われて傷ついた経験談や、経膣分娩(けいちつぶんべん)したかったとの思い、よりよいケアを求める願い…。メールに込められた母親たちの気持ちや病院の試みを紹介する。(平井敦子)

産後に子を抱きたい


 「帝王切開でも、家族の立ち会いや出産直後に胸に子どもを抱く『カンガルーケア』など、経膣分娩と同じようなケアが受けられるようにしてほしい」。そんな願いをメールにしたためたのは、呉市の主婦賀谷恵さん(30)。一月二十五日、市内の国立病院機構呉医療センターで二人目となる長女心咲(みさき)ちゃんを帝王切開で出産した。

 「長男のときと、ずいぶん違いました」と賀谷さんは振り返る。四年前、帝王切開で長男の陽樹(はるき)ちゃんを出産したときは、しっかり対面したのは翌日だった。出産した感激が薄く、「えっ、この子が私の赤ちゃんか」という感じで、育児に自信がなくなった、という。

 今回の長女出産では、手術直後に、ほおとほおを触れ合わせた。手術室から個室に帰ってすぐ、添い寝して、おっぱいをあげた。「うれしくて、涙が出た。早く子どもに会いたいという希望を病院に伝え、かなえてもらえた」と喜ぶ。

 連載第一部で紹介した広島市中区の土谷総合病院は、帝王切開の時もカンガルーケアを実践している。母親が望み、赤ちゃんの状態が良ければ、手術室で手術直後に赤ちゃんを胸に抱くことができる。小田博宗産婦人科部長は「帝王切開では、産んだ実感がないという悩みが生じる場合もある。カンガルーケアは、母子の愛着形成や母乳育児の促進につながる」と効果を強調する。

 賀谷さんは、家族の立ち会いが実現できなかったことも残念がる。帝王切開時に導入している病院はまだ少ないからだ。しかし、連載第一部で取り上げた西区の香月産婦人科は立ち会いが可能。香月孝史院長は「家族がそばにいて、手を握ってもらうなどすれば、母親の安心につながる。緊急帝王切開では、緊迫した空気の中での医療スタッフの必死な姿も一目瞭然(りょうぜん)で、医療への理解にもつながる」と狙いを説明する。

「楽」の偏見 傷ついた


 帝王切開は、陣痛が始まった後などに緊急に行う場合もあれば、陣痛を待たず計画的に行う場合もある。いずれにせよ手術後に子宮収縮の痛みやおなかの傷の痛みを伴う。しかし、「帝王切開は楽」との偏見もある。

 大竹市出身で名古屋市に住む主婦(29)は、破水後、大量の出血があり、緊急帝王切開となった。「術後は、おなかの中がかき混ぜられるような鈍痛に耐え、隣で赤ちゃんが泣いてもすぐ抱いてやれない、はがゆい思いをしました。それなのに、『帝王切開って楽なんでしょう』と、心ない発言を悪気なしにいう人が出てきました。陣痛も経験せず母親としての役目を果たしていない、とも受け取れ、そんな発言の一言一言が、だんだん苦痛に感じられ、責められているような気持ちになった」と打ち明ける。

悩み話して思い共有


 一度帝王切開すると、子宮破裂を防ぐため次の子も帝王切開するケースが多い。山口市の主婦(37)は「一人目が帝王切開のため、二人目も帝王切開に。産み方を選べる人がうらやましい」との思いをメールにつづる。

 「帝王切開後の経膣分娩」(VBAC)を選ぶ人もいる。帝王切開で長男を産んだ岩国市の主婦(33)は「リスクも聞いた上で決意した」。VBACができる病院を探し、二人目の長女を無事に出産した。

 連載第一部に登場した今治市の日浅産婦人科医院は、前回帝王切開の人の二割でVBACを成功させている。日浅毅院長(59)は「VBACができる病院を探す前に、病院によって帝王切開の割合が異なることを知ってほしい。ハイリスクの妊婦を受け付ける総合病院は一緒にできないが、割合が高い場合、『不必要な帝王切開』も考えられる」と強調。その割合を各病院は広く公表するべきではないかと訴えている。

 長男を帝王切開で出産した助産師の有地美奈子さん(45)=広島市南区=は「経膣分娩がしたかったので、私自身も納得できていない部分がある。そんな母親たちもいる」と指摘。「お産のときに嫌だったこと、心に引っかかっていることは、同じ帝王切開の経験のある人や助産師ら信頼できる人に、とにかく全部話してみては」と提案する。

 「それで、もやもやの半分ぐらい解消できるかもしれないし、次の一歩も見えてくる。どんなお産も、掛け替えのない大切な体験であることには変わりはないから」とアドバイスしている。


帝王切開 胎児や母体に生命の危険が及ぶのを回避するのが目的。骨盤位(逆子)をはじめ胎児の胎位異常や、胎盤がはがれ落ちる「常位胎盤早期剥離(はくり)」、胎児の頭が大きくて母親の骨盤を通れない「児頭骨盤不適合」などの場合に適用される。正確なデータはないが、出産全体に占める割合は病院によって異なり、一般病院で1―2割、リスクの高い妊婦が集まる総合病院は3―4割と高くなる傾向にある。

2007.2.12