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「いいお産 考」

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 第2部 支える人たち

4.オープンシステム
− 健診・分娩 役割を分担 −

高次施設と診療所連携


  妊婦に安心感 医師負担も減

 「二つの病院の『いいとこ取り』をさせてもらった気がする。いろいろな意味で安心でした」。二月に岡山大病院(岡山市)で長女を産んだ森ありささん(25)=岡山市=は、そう振り返る。

 森さんが選んだのは、「周産期オープンシステム」。かかりつけの診療所などで健診を受け、総合病院で出産する新たな仕組みだ。しかも、分娩(ぶんべん)時には、岡山大病院のスタッフに加え、妊娠中にずっと健診してもらっていた近くの井上産婦人科クリニックの井上隆医師(55)が立ち会ってくれた。

 「よく知っている井上先生がいてくださるのか、そうでないのかでは、気持ちが全然違う」と森さんは振り返る。加えて、クリニックは大きな総合病院に比べて待ち時間が少なく、便利。岡山大病院は分娩の緊急時に十分なスタッフと設備で対応してもらえる心強さもあった。

▽緊急の手術に集中

 岡山大病院が二〇〇五年十二月に着手したオープンシステムで、これまでに四十一人が出産。妊婦にはおおむね好評だ。

 このシステム、実は産科医師不足の対策としての意味合いが強い。身近なクリニックが妊婦の健診を行い、母子の生命にかかわるような緊急処置にも対応できる総合病院が分娩と、役割を分担。互いの負担を減らそうというわけだ。

 総合病院の医師にとっては、妊婦健診が減ると、緊急手術などに集中できるメリットがある。中小規模の病院の医師にとっては、スタッフや設備の整った総合病院での分娩立ち会いは、技術的にも精神的にも負担感が和らぐ。

 岡山大病院のオープンシステムには、周辺の十五病院・診療所の医師二十一人が登録している。森さんを担当した井上医師も、その一人。七年前に市内のビル内に診療所を開業するまでの三十年間、分娩介助の最前線にいた経験がある。「医師が一人の診療所では、とても分娩を扱えないが、大学病院の協力があれば可能。今までの経験を生かせるのはうれしい」と井上医師は新たな仕組みを歓迎する。

 「お産の『安全神話』が広がる中、医師一人で分娩を担うのが難しくなっている。オープンシステムは、その対策の一つ」と岡山大医学部産科婦人科の平松祐司教授は説明する。「安全神話」にこたえなければならないという医師たちの強迫観念は強い。

▽「安全神話」が重圧

 赤ちゃんが生まれるときに死亡する確率「周産期死亡率」は、日本は世界で最も低い。〇五年は千人当たり四・八人。戦後まもなくは、千人のうち四十数人が亡くなっていたが、産科医師たちの努力などにより、死亡する赤ちゃんは激減した。

 しかし、同時に、「無事に生まれて当たり前」との「安全神話」を産む人たちにもたらした。それは、医師たちにとっては、「絶対に無事でなくてはならない」との重圧になる。「緊急時に少しでも早く、設備やスタッフの充実した高次施設へ」なら当たり前だが、「ならば最初から高次施設で分娩を」というのが、オープンシステムの別のとらえ方でもある。

 広島県立広島病院(広島市南区)も、昨年夏から周産期オープンシステムを始めた。市内と近郊の七つの産科施設と連携。これまでに三十人の妊婦が、このシステムを選択している。岡山大病院とは異なる「セミオープン」形式で、健診施設の医師は、分娩には立ち会わないが、「役割分担」の考え方は共通している。

 同病院の上田克憲産科部長は「医師不足の対策としても、妊婦の安全、安心のためにも、このシステムは有効。今後の分娩の一つのスタイルになる」とみている。しかし、その一方で、「安全な分娩態勢をつくればつくるほど、『安全神話』を強固にしてしまう。お産が決して安全ではないことを、産む人たちにどうすれば分かってもらえるのだろうか」。医師たちのもどかしい思いは消えない。



■ 広島・岡山などで試行 ■

厚労省のモデル事業


かかりつけ医 立ち会いも

図「周産期オープンシステム」

 岡山大病院(岡山市)や広島県立広島病院(広島市南区)で実施している「周産期オープンシステム」は、広島、岡山県を含む七都県で、二〇〇五年度から三年間、厚生労働省のモデル事業として試行されている。

 広島、岡山両県では、次のような仕組みになっている。妊婦は、妊娠二十週ごろまでに、かかりつけの産婦人科医師の紹介状を持って、「オープン病院」の県立広島病院や岡山大病院で受診し、分娩を予約する。

 その後は、かかりつけの産婦人科で健診を続ける。出産間近の妊娠三十四〜三十六週からは、オープン病院で健診し、オープン病院で出産する。産後一カ月の健診は、どちらの施設でも受けられる。

 かかりつけの産婦人科医師が、分娩に立ち会う「オープン」形式と、立ち会わない「セミオープン」形式がある。岡山大病院の場合、これまでに出産した四十一人のうち十一人がオープン形式だった。県立広島病院はすべてセミオープン形式にしている。


2007.3.17