「イノシシは生きてはいけないのですか?」。福山市の主婦酒林
清美さん(39)のメールは、そんな問いかけで始まっている。「農家
の方は大変だと思いますが、なぜイノシシが農家の作物を狙うの
か、そこを解決しないと」と、問題の根深さを見てとる。
広島市安芸区の会社員佐藤一幸さん(62)からは三通の手紙をいた
だいた。最近の文面には「連載は、町に暮らすわれわれにとって、
驚きの限界を超えています」。「その心労はさもあらんの思いで
す。永年の生活の地を捨てざるを得ない状況を思うと、言葉を発す
ることもできません」と被害農家の心中にも思い巡らせ、「なぜ、
人里に出てくるのか。なぜ? の向こう側に、猪変ならぬ人変があ
ります。思い改めなくては、イノシシの進攻を食い止めるのは至難
でしょう」とつづる。
三原市の三原東高の川向かいに住む団体職員松本晴喜さん(43)
は、三原バイパスの建設工事が本格化した数年前から、河原をうろ
つくイノシシを目撃するようになった。
近くの新聞販売従業員山口艶子さん(62)も支度中の午前二時ご
ろ、飼い犬の鳴き声でイノシシの気配に気付く。懐中電灯を照ら
し、石で追う。「配達中にも二度、スクーターの前を小さいのが横
切りました。これから先どうなりますやら」
広島市西区の装飾金物製造業、犬塚蔵造さん(54)は、広島県吉田
町で獣害に悩んでいる親類のために狩猟免許を取った。ハンター仲
間の先輩が、イノシシの習性を教わり、箱わなも開発した。「敵を
知らないで、対策も何も始まらないですよ。都市部じゃあ、イノシ
シを餌付けまでする心得違いの人もいる。人と獣の境をなくす片棒
を担いどるのに」
安芸区の無職男性(67)からは「ヒヨドリやカラス、イノシシ、サ
ルなどの有害鳥獣に苦悩している集落を定点観測して、自然や動物
保護と高齢地域の生活の現実について問題提起してほしい」との要
望が届いた。
ほかに、広島市安佐南区の広島広域公園、広島県大野町などでの
目撃情報も寄せられた。
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「イノシシが出始めて、もう十年。(略)毎日が戦いです」。広
島県上下町の農業森年元之さん(78)は亡き父と戦後、百五十アール
ほどの田畑を切り開いた。「辛抱して、耕し、守ってきた農地。若
い者に『どうせ、イノシシに荒らされるくらいなら、家で食うだけ
作りゃあええ』と小ばかにしたように言われるんがくやしゅうて
」。気持ちが治まらない。
「私たち、山里の農家はイノシシ被害にくたびれて、農業をやめ
ようかと途方に暮れます」。山口市の稲作農家、古屋広幸さん(70)
の思いは三枚の便せんにあふれていた。田んぼはもちろん、道や排
水溝も崩されて、さくに囲まれた生活…。恨む心の傍らで、人間の
ふがいなさにも目を向ける。「山が荒れ、人間が歩くどころか、寄
りつけない現状。(略)だから、鉄砲で駆除できなくなっている」
イノシシ出没の前触れは身近な環境の変化、という気付きを何人
もが書き送ってきた。「新広島空港ができて以来、国道2号を渡っ
て海岸部までイノシシがくるようになりました」=広島県安芸津
町、機械製造業古川賢二さん(62)。三原市西部の農家女性(55)も
「新空港ができて、イノシシが現れた。稲の穂が出てから実るま
で、田んぼわきに止めた車で毎晩のように見張りを続け、くたびれ
ました」。
山口県周東町、元教員村上憲司さん(72)の家で昨年春、庭先に子
イノシシが迷い込んだ。「周りではこれまで、被害が無かった。有
機無農薬栽培で自家消費ほどの野菜でも作りながら老後を送りたい
と、考えていた矢先のイノシシ騒ぎでした」と気をもんでいる。
「理屈じゃない、イノシシに荒らされた者の気持ちを分かってほ
しい」。悔しさを切々とつづるのは、広島県瀬戸田町の農家谷国澄
江さん(53)。ミカン畑の実は食われ、根も掘られ、カボチャ畑は金
網の下を掘ってくぐられ全滅した。「桃をルンルンで取りにいく
と、低い所の実を全部食われ、土産にふんまで残して行かれまし
た」
三次市で二十頭の牛を飼う敷本馨さん(53)も牧草地を掘り返さ
れ、収穫が思うに任せない。「農地の償還金はまだ残っているし、
子牛生産は収益性も低い。果樹などの園芸作物を守るように、広い
飼料畑をさくで囲うのは無理」と苦しい胸の内をさらす。「牛肉の
国際競争力を上げるどころの話じゃない」
水田やナシ畑を襲われたという広島県甲田町の農業高塚敏徳さん
(60)からは「イノシシの問題は机の上で考えるより、現場に出るの
が一番。話を聞いてもらいたい。連載に期待している」と、励まし
の電話をいただいた。
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