数が分かる?
視力とか色の識別とか、いろんな実験に付き合ったよ。ご褒美は、小麦粉と卵、砂糖で焼き固めた、丸いボーロ菓子。牛乳入りのがおいしいんだ。
緑色を選ぶ実験では、正解ボタンを鼻で押すと、ボーロが五粒出てくる。ある日、機械の故障で四粒しか出てこなくて「おかしい。、少ないぞ」「こぼれ落ちたかな」とウロウロ、待っていたんだ。その様子を見た江口さんが「四と五の区別ができるのかも」って驚いて。幾つまで数えられるかは、まだ謎にしてあるんだ。
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炭が薬代わり
親とはぐれた幼い「ウリ坊」を飼おうとして、牛乳を飲ませる人がいるけど、下痢しやすいんだ。研究熱心な猟師は気付いているけど、ボクたちは炭を食うんだ。下痢止めの薬代わりさ。山火事の跡に埋まっているし、炭焼き小屋の近くにも落ちているからね。
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家の外は怖い
すみかの境界から、一歩でも踏み出すのが怖いんだ。人間界で言うだろ、「清水の舞台から飛び降りる」って。そんな気分さ。食うか食われるか、警戒心が弱けりゃ、野性の世界じゃ生きていけないんだ。
江口さんは、飼育舎から実験室に入るまで十メートル足らずの移動に二~三週間かかるのをじっと待ってくれたよ。
とりわけ、天敵の人目につくのは嫌なんだ。ごちそうが並ぶ田畑をめがけ、人里に下りる時も、森ややぶが途切れる境で必ず脚が止まる。人の気配が気になる。山里から人家までの距離が遠くて、裏山も手入れされて見通しがいい所なんか、苦手だねえ。そんな弱点に気付く人が少なくて、助かっているけど。
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