中国新聞

 

食べて納得「豚の先祖」
害獣一転 煮てよし揚げてよし 中国地方で調理の試み

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 「舌の上で、とろけそう…」。テレビのグルメ番組で、こう表現 される肉は、牛か豚だ。猪(しし)肉は、そんなやわではない。歯 ごたえある肉。あっさりして甘みさえ感じる冬の脂身は、食通をと りこにする。駆除の盛んな中国地方では、夏場のイノシシも食材と して生かす工夫が各地で続く。人気料理のレシピを交え、成果を紹 介する。

「猪変(いへん)」

特 集
(03.4.27)


産直市場「うり坊の郷」  ―肉販売で村おこし

 中国道鹿野インターから北へ約四十キロ、山口県むつみ村の国道 315号沿いに「うり坊の郷(さと)」はある。二〇〇一年六月の 開業以来、一年中、猪肉を売っている。「予想以上の売れ行きで、 去年は夏休み前に在庫が品切れになってしもうて。お客さんに迷惑 かけたんいね」。運営する地元の農事組合法人「小国ファーム」 (十二戸)の役員、下瀬進さん(55)が頭をかく。

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産直市場「うり坊の郷」に常設している猪肉の直売コーナー(山口県むつみ村)

 「道の駅」風の施設や公衆トイレは、県や村が整備してくれた。 「害獣のイノシシも、田舎ならではの資源。売り物にしたい」とい う、逆転の発想が受けたからだ。「害獣と憎み、嫌うんは簡単やけ ど、善悪だけで物事を切り捨てるんは私の性分に合わんいね」と下 瀬さん。

 猪肉が都市部から客を呼び、地域おこしにつながり出すと、憎し み一辺倒だった住民の目は変わった。隣接の食堂も市場の肉を使 い、冬は猪鍋を出し、この春からは猪肉うどんを献立に加えた。

 猪肉は、冬に買い付けて保冷庫で蓄えている。島根県境の山中で 射止めた獲物を、ハンターが持ち込んでくる。一頭丸ごとを一キロ 千円ほどで買い取る。食肉の処理、販売許可を持つ下瀬さんと猟の 先輩、中村文人さん(70)が市場奥の処理室でさばく。

 スライス肉は百グラム当たり、ロースが六百円、バラ五百円。シ チューや空揚げ用に塊でも売る。月平均で二十~三十万円の売り上 げがある。

 法人で牧場を設け、駆除用のわなによく掛かる幼獣のうり坊の飼 育もしている。三十アールの牛の放牧場跡を高さ二メートルの金網 で囲い、五十頭近くを飼っている。「夏場の猪は脂が乗らず、その ままじゃ売れんいね。だから育てて、冬まで待つわけ訳」。餌は古 米や大豆、野菜くず。野性味を考え、人工飼料は与えない。この秋 には、牧場育ちの猪肉も市場に並ぶはずだ。

しまねの味開発指導センター  ―夏場のレシピ大好評

夏場イノシシ料理の試食会での
人気ランキング
料理
評価点
空揚げ
4.3
つくだ煮
4.2
みそカツ
4.1
角煮
3.9
チャーシュー
3.8
土手煮
3.8
ステーキ
3.7
ジャーキー
3.4
ハンバーグ
3.4
スープ
2.5
(しまねの味開発指導センター調べ)
※評価点は、試食した73人の平均。<良い>を5点、<悪い>を1点とし、5段階で採点した。

 しまねの味開発指導センター(浜田市)が開いた夏場イノシシ肉 の試食会では、空揚げ、つくだ煮、みそカツが人気料理のベスト 3。角煮、チャーシューと続く、好評の品々を並べてみると、まる で豚肉料理のオンパレードのようだ。

 「もともと、豚の先祖ですからね。豚肉と同じような調理をすれ ばいいんです」。センターで研究した久家美奈さん(30)は、猪肉を 特別視する必要はないと説く。

 野生の肉独特の香りに慣れない人には、もう一味を足すのがコツ という。調味料にハーブや香辛料を加えて下味を付けたり、ショウ ガやシソなどの香味野菜を一緒に使うといい。  センターが、夏肉の料理レシピを紹介したパンフレットは初版二

千部が底をつき、千部を刷り増した。「ぼたん鍋しか知らなくて …」「ハンターにブロック肉をもらったけど、弱っていた」。県民 から直接、お礼の電話がかかった。

 材料は、おすそ分けの肉でもいいが、細菌感染には注意し、保冷 や十分な加熱が欠かせない。

大崎海星高校  ―生徒が創作メニュー

 二〇〇〇年春、竹原市から大崎海星高校に転任してきた家庭科の 金森真理子教諭(48)は、「すき焼きの肉はイノシシだよ」「うちは 鍋に入れる」と話す生徒たちに驚いた。「食べ慣れているんですよ ね。島育ちなのに」

 瀬戸内海に浮かぶ大崎上島。六、七年前から、特産のミカン畑を 襲うイノシシ被害に悩まされ、駆除が続いている。

 金森教諭の勧めで〇一年度から、家庭科を学ぶ女子生徒が、駆除 の獲物の猪肉を使う創作料理を課題研究に選んできた。猟友会や農 家の聞き取りから始め、生態や被害の実態、防除対策費の重さを知 った。

 味を練り、三つに絞り込んだ自慢メニューは、カレーパン、シチ ュー、辛味いため。レシピ集を作って町内や隣町に配り、学校のホ ームページにも載せている。

 「学習効果が一番あったのは、私かも」と金森教諭。「脂ぎって 硬い」のイメージが消え、「こんなおいしい肉はない」に変わっ た。塩コショウを振った、あばら肉のオーブン焼きが、今は大好物 だそうだ。


つくだ煮 (1)モモ肉300gを4、5cmに切り、サラダ油 をまぶす
(2)鍋に酒と水を1/3カップずつ、酢を小さじ1弱、 薄切りにしたショウガ1かけを入れ、煮立たせる
(3)肉がくっつ かないように入れ、約10分煮る
(4)砂糖30g、みりん30cc、濃い 口しょうゆ50cc、つや出しにはちみつ大さじ1を加え、さらに15分 煮る

◆こつ◆ 弱火でじっくりと煮詰める
空揚げ南蛮風 (1)肉の漬け汁(ネギ10cm▽しょうゆ、酒= 小さじ1▽ごま油=同2/3▽ショウガ汁=同1/2▽塩=同1/3)を作る
(2)モモ肉300gを一口大に切り、漬け汁に20分な じませる
(3)汁気を取り、かたくり粉をまぶす
(4)160度の 油で4、5分揚げて取り出し、今度は180度の油で揚げる

◆こつ ◆長く漬け込むと、肉が硬くなる
レシピはいずれも、しまねの味開発指導センター資料から
ナスと猪肉の甘辛いため ジャーキー 焼きハム ゴーヤーチャンプルー
風いため



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