中国新聞

 

ハイテク駆使 野生とらえた
 連載中、読者の皆さんから多かった質問の一つが「イノシシの写真、あれはどうやって撮ったんですか?」。待ち伏せて撮ったと想像した方もいる。実は大半が、夜間にフラッシュを使った自動撮影だ。野生動物を長年撮り続け、蓄えてきた本紙のノウハウをちょっぴり紹介しよう。
「猪変(いへん)」

特 集
(03.6.3)


Photo
野積みの間引いたスイカをあさりにきたイノシシの幼獣ウリ坊。2個のフラッシュが光り、スタジオ撮影のような立体感(2002年6月、広島県倉橋町)

 感知器仕掛け自動化 成功5割、まずまず


自動撮影の仕掛けをしたスイカの野積み場。傘は雨よけ、フラッシュの支柱のくいには「野生動物撮影中」と断り書きの札を掛けた(2002年6月、広島県倉橋町)

イノシシはなぜか、車には警戒心が薄い。乱反射を避けてフラッシュ(右端の影)をフロントガラスの外側に据え、車内から撮った(2002年8月、広島県倉橋町)

 今回の撮影機材は、自動巻き上げ機能のある一眼レフカメラにフラッシュ、三脚、イノシシの接近を見張り、感知するセンサー、雨よけの傘やポリ袋が主なものだ。

 肝心なのはセンサー。防犯用などで市販品もある赤外線式や熱感知式、接触式などのセンサーから適当なものを選ぶ。撮影カメラの専用端子とつなげば、センサーが送った電気信号でシャッターが切れる。

 もともと憶病なイノシシは、普段は歩き慣れた安全な道を使う。ヌタ場(泥風呂)や足跡などから、撮影向きのポイントに目星をつけた。三脚を使い、撮影角度を調整する。フラッシュの位置はカメラとセンサーとの距離、出没時間帯、背景の明るさを考えて決めた。角度の違う複数のフラッシュを使えば、写真に立体感が出せる。

 野外撮影では、雨対策が欠かせない。レンズ以外の部分をポリ袋で丁寧に覆う。広島県・倉橋島での撮影時は、カメラがフクロウの止まり木になり、袋が破けて水浸しになった。

 仕掛け終われば、思い通りにフラッシュが光るかどうか、シャッターが下りるか、現場で必ずテストをする。

 「猪変」取材では、二〇〇二年三月から広島、島根、山口の計三十五カ所で自動撮影を仕掛けた。十六カ所で狙い通り、イノシシをとらえた。「五割打者」だった。

 シャッターは落ち、空振りではなかったものの、お目当てのイノシシ以外の野生動物、「お客さん」が写ったケースも多くある。

 ほ乳類では、野良犬、猫、シカ、テン、イタチ、タヌキ、キツネ、ノウサギ、そして人。カラス、キジ、フクロウ、キジバト、ヒヨドリ、ルリビタキなどの野鳥も画面に入っていた。

(山本誉)

 イノシシの気配を知るサイン
イノシシの気配を知るサイン。左からタケノコの食べかす、掘り返し跡、足跡、泥を擦りつけた樹木、抜け毛

○撮影日誌○
ハチの群れが…

2002年8月19日

 広島県安浦町。江戸時代の猪(しし)垣探しに山へ。かまでやぶを刈り進むうち、「ブーン」と突然の羽音。黒いハチの群れに襲われ、眉の上を刺される。巣を壊したか?。病院に駆け込む。
不審者に見える?

2002年9月8日

 島根県邑智町。稲刈りシーズン。田んぼを見下ろせる道に車を止め、イノシシの張り込み。2時間、3時間…。あきらめかけたころ、背後から「どうしました?」。お巡りさんの職務質問。「ご苦労さんです」の励ましがうれしかった。
「空振り覚悟」でも

2002年10月11日

 海原を泳ぐイノシシを探しに、会社の船で瀬戸内海へ。初夏から、もう三十回は船で出ただろう。空振りは覚悟の上といえ、今日こそ…。
予想外のお客さん…

浜田市山中の獣道にいたテン(2003年1月)

竹原市内の畑に現れたシカ(2002年9月)
まるで冷凍庫 機材カチカチ

2003年1月16日

 浜田市へ。自動撮影で仕掛けたカメラが雪に埋もれ、凍りついていた。寒い。町ごと、冷凍庫の中にいるようだ。
街の中を堂々

2003年2月17日

 神戸市。交番の前、横断歩道と、イノシシが構わず歩いていく。まさに傍若無人。自動撮影にあれほど知恵を絞り、かけた時間は何だったのか。ガックリ。野生動物らしく、気配を隠す中国地方のイノシシたちとは別物と思うしかない。

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