中国新聞

◇ 連載を終えて 読者の声◇

人獣共存 力を合わせ

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イノシシを追い、瀬戸内海から中国山地、そして欧州にも取材した「猪変」の連載と特集

 中国山地はおろか、瀬戸内海でも増えるイノシシと人間との摩擦について、「猪変」で伝えてきた。あつれきの背景には離島や山里の過疎があり、高齢化、農林業の衰退もあった。連載を終えて、ファクスと電子メールで結ぶ中国新聞「元気づくりネット」を含め、読者の感想を聞いた。獣害にあえぐ農家への理解を望む声や、水や食糧の供給源である農山村を守らなくては、との強い思いが都市部、農村双方から数多く寄せられた。イノシシと縁のある識者や学生からの寄稿と談話を交え、紹介する。

(イノシシ取材班)
農村から都市部から中国地方以外流域の輪
里山の再生食べて支援アイデア寄稿・談話
「猪変(いへん)」

(03.6.11)

猪変TOP

 農村から

 「丹精込めた作物を食い荒らされた情けなさが分かるか」と、生の感情が文面にあふれる。裏返せば「被害さえ無ければ…」という共存への道筋がほのめくのだが。

 被害の悔しさこの上なし

 植え付け、育てた作物がもう少しで収穫と楽しみにしていた矢先、食い荒らされ、田んぼのあぜや石垣までも崩される。他人の被害では分かりにくいが、自分が被害に遭うと皆さん目の色が変わり、対処する。私もそうだった=東広島市、農業水野尚典さん(62)

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ハッサク畑にあった、風呂代わりのヌタ場に現れたイノシシ(2002年11月、広島県生口島)=夜間に自動撮影

 イノシシと共存なんて、考えること自体がおかしい。苦労して作った農作物を一晩のうちにダメにされた経験のない人が言うこと=三次市、農業児玉信作さん(63)

 海原を泳ぐイノシシの写真が強烈だった。あれ以来、町内で「イノシシも海を泳いで渡るんだけえ、なかなかしごにならん(始末におえない)よの」という言葉がよく聞こえる=島根県瑞穂町、町職員藤田睦弘さん(37)

 当地の山口県屋代島(周防大島)も本年からイノシシが農作物を荒らしだし、農家はお手上げ状態。初めてのことに、驚いている=山口県東和町、農業松永芳太さん(79)

 夫の実家の島根県はイノシシ被害で大変。一夜にして田畑が荒らされ、収穫できない状態になる。根絶やしにするか、人間の方が地区を出ていくしかないように思う=広島県能美町、事務員的井睦子さん(50)

 イノシシだけでない。タヌキ、野鳥、チョウなど、いろいろ。私どもでは、むしろタヌキ被害が多い=広島市安佐北区、建築士上西一之さん(55)

 失礼だが、都市住民にできることはない。できるとしたら、イノシシ被害防止の作業など、農家の実情の追体験=三次市、農業細川唯義さん(62)

 農業を放棄した私でも、わずかな畑で育てた野菜を荒らされると悔しさこの上なし。専業農家の人たちを思うと、いたたまれない=広島県向原町、無職谷林文男さん(64)

 農村の老人たちが汗水垂らし、作った作物を一晩にして荒らされるのは情けないこと。行政も一緒に考える時がきた=三次市、農業児玉規矩馬さん(72)

 登山ブームで山歩きのイロハも知らない方が、迷惑ごみを山に置き去りにする。登山ばかりか、山菜採りや森林浴で何げなく車を乗り入れ、それが林道整備につながり、環境を壊す。一人ひとりの考え方を変えなければ=山口県錦町、団体職員山本千恵子さん(54)

 農民とイノシシの絡み合った実態を都市住民は理解し、捕獲に目くじらを立てないでほしい。私たち農民もイノシシの命を軽く見ているわけではない=安佐北区、農業女性(65)

 肉は食べるくせに、害獣を殺すのはかわいそうなどという理屈は、訳が分からない。直接被害を受けていない、または知らないからだ=三次市、無職竹中実雄さん(65)


 都市部から

 瀬戸内の沿岸都市まで、イノシシの気配は迫っている。寄せられた声からは「もう、よそ事じゃない」と、危機感がうかがえる。

 出没地の苦労よく分かった

 広島の実家周辺では、がけは崩す、隣の田んぼとの境はなくなると、もう、むちゃくちゃ。農産物がやられるだけでなく、耕作地そのものが荒らされてる。五年後、十年後の農業は全滅状態では? 農協は、どうしようとしているのだろう=下関市、会社員乗兼宍道さん(58)

 通学路も危険な状態。都市住民にもツケが回ってくる深刻な問題=三原市、連合町内会長西原達夫さん(70)

 中山間をよく歩く。老齢、過疎化した地域のイノシシ被害の深刻さが分かる。四周をトタン板で囲った水田も見た=福山市、無職古沢昭さん(76)

 農村が国の大切な食糧基地であることを、行政や都市住民に認識させねばならない。自給率30~40%は国として不健全=廿日市市、自営業畑本千賀子さん(65)

 海を泳いでほかの島に移動する、したたかなイノシシの生活力に驚き、出没地域に住む方々の苦労がよく分かった=広島市佐伯区、無職吉岡昌文さん(73)

 被害者の声をもっと取り上げてほしい=安芸区、主婦久保登志子さん(57)

 「自然保護では飯は食えん」とはよく聞くせりふだが、自然を保全せずにどうやって人は生きていくのだろう。こうした見方が多くなったのも、経済効率一辺倒の社会構造、それに伴う農山村での生活の破壊が大きな原因。社会構造の変革なしに「獣害」は解決しないだろう=広島県大野町、広島フィールドミュージアム会長金井塚務さん(52)

 メディアが取り上げる動物は、外国の紹介が多く、国内の身近な動物は登場しない。「猪変」は異色。思考の幅を広げるのに貢献したと信じる=安佐南区、大学非常勤講師竹元清実さん(63)

 被害に直接遭った地域でないと、獣害の切実さは分からないと思った=佐伯区、無職岡森義則さん(67)

 人間専用区域、人獣共存区域、人間は原則立ち入り禁止の野生動物専用区域など、線引きを考える時期にきている=中区、会社員田中聡さん(57)

 自分は農家ではないが、野菜がイノシシに掘り返され、逆立ちしている風景を見た。被害を目の当たりにすると、共存やすみ分けは考えられない=広島県熊野町、主婦(60)

 実家(安佐南区沼田町)の田んぼで、すさまじい被害の実態に衝撃を受けている。動物愛護団体などは共生とか、すみ分けと言うが、農家には迷惑な考え方。イノシシ対策に万策尽き、農業にやる気を失う事実を都会人は理解する必要がある=西区、会社員吉岡済さん(59)

 イノシシ被害と対策の難しさをあらためて知り、被害農家の自助努力だけではどうにもならないと感じた=呉市、無職男性(67)

 農家や農村が現実を踏まえ、都市住民に何を望むのか、明確に打ち出して協力や支援を仰ぐべきだと思う=南区、会社役員大下嘉弘さん(66)


 中国地方以外

 中国新聞ホームページなどで連載を読んだ中国地方以外の方からも、感想が届いている。

 対策の立ち遅れ痛感

 千葉県でイノシシ猟をしている。猟体験で気付いたのは、都会と農村の感覚の隔たり。野生動物はどれも愛護すべきというのが都会人、農村では憎き害獣。愛護の視点で一辺倒の報道(首都圏で顕著)に対し、両者の視点を漏れなく取り上げた「猪変」は価値ある連載だった=東京都江東区、自由業石原亨さん(37)

 私の住む栃木でもイノシシによる農業被害は年を追い、増え続けている。「猪変」の記事は、大きな教訓。中国地方の自治体では膨大な対策費がかかっている。増えすぎてからでは大変で、栃木でも早急な対策が望まれる。イノシシと人間、お互いの幸せのために=栃木県氏家町、地域情報紙編集長丸山美和さん(31)

 記事を読み、わが国のこの分野での立ち遅れを痛感している。野生動物のコントロールに必要なハンター組織に歴史がない。狩猟に対する風当たりの高まり、銃砲・火薬の管理強化などから、ハンターの高齢化も加速している。各府県は「第九次鳥獣保護事業計画」でそれぞれ、調査と研究の必要性と組織や機関の設定をうたっているが、本家の環境省ですら、その体制を持っていない。被害に立ち向かう農林関係もバラバラ。問題は深刻化している=兵庫県西宮市、兵庫医科大名誉教授朝日稔さん(73)


 流域の輪

 「独り農村だけで片付かない問題」とみる読者たちは解決の軸として、上流―下流の流域連携を挙げている。

 新税導入が必要では/「流域の思想」具体化を

 都市住民は、きれいな水の恩恵に浴している現状を直視し、農村部での山村整備および防護さくの経費を同等に負担するための新税(環境税)など、発想転換が必要では?=広島市安佐南区、無職対馬信夫さん(69)

 自然保護や動物との共生を考える時、どうしても獣害を受ける人々が出てくる。自然の恩恵にあずかる人たちは、入山料とか景観税とか、その対価を支払う必要がある=佐伯区、無職田中健司さん(68)

 都市に住む者が「イノシシ税」でも出し、さくの設置で人間とイノシシとがすみ分けるのが理想=安佐南区、無職太田垣フサコさん(69)

 流域単位で運命共同体の認識を深め、水を消費する下流の自治体が、上流の水源地帯に公費を使う仕組みが一つのかぎ。上流の生態系、環境の維持に税金を使う。それを都市生活者が受け入れるか否かにかかる。構造改革特区も百年後を見据え、「流域の思想」の具体化に活用すべきだ=安佐北区、農業男性(61)

 もっと皆で、真剣にイノシシ対策を考えないと中山間地域の荒廃が進み、農産物生産コストの高騰につながるのではないか=岩国市、定年帰農者西川重毅さん(67)

 都市住民には、地元産の米食の消費を増やしてほしい、その一念です=広島県豊栄町、商業福原則之さん(72)

 都市の営みの持続には、安全な水や食糧の確保、水害防除などから、上流域の農山村の崩壊を防がなければならない=佐伯区、会社員森本昭男さん(73)

 われわれ都市住民は、イノシシ被害に直面している農村との共存のためにも、ボランティアを募ってでも、耕作放棄地の拡大防止や有効利用に取り組むべきだ=岩国市、無職小林嗣政さん(60)


 里山の再生

 「猪変」の原因としては、薪や下草を採りに入る人影が減った里山の環境変化を指摘する声が目立つ。

 農林業の後継者対策重要

 杉、ヒノキの植林でイノシシの餌場を奪ったのは人間だから、彼らが生活できる場所を用意してやる必要がある。国の権限で、集落から山に向かって五十~百メートルほどは植林禁止地帯を作ればいい=島根県六日市町、農業丸山一郎さん(69)

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人通りの消えた夜更け、車道に現れた成獣と幼獣の群れ(2002年7月、広島県倉橋島)=車内から撮影

 人間が減った山村は、イノシシもサルも恐れなくなり、人間に危害を加えるだろう。山村の荒廃は、日本の衰退につながる。農林業が自立できるよう、後継者対策が重要=山口県錦町、団体役員中村勉さん(73)

 長年山歩きをしている。広島県内の山には雑木林がほとんどない。杉やヒノキを植えた人間の計算高さに(イノシシ被害で)罰が当たった。山を自然に戻す、それしかない=広島市佐伯区、無職峠前絹枝さん(70)

 募金で、イノシシの餌の実がなる木を植えるとか、山のふもとをフェンスで囲うとか=安佐北区、主婦(43)

 山林伐採、ダム・コンクリート護岸の建設など、自然破壊につながることを一切しない。山、川、海の循環サイクルを回復する。名産カキの味も戻ってくる=佐伯区、嘱託片山強さん(66)

 人間の勝手で環境を壊し、動物たちが人間社会に出てこなくては生きてゆけなくなったことは肝に銘じたい。「猪変」を考えることは、未来の私たち子孫の生活につながること=福山市、主婦柳川広子さん(28)


 食べて支援

 猟期外に駆除したイノシシを食肉資源化する動きを取り上げた第五部「食らう」に、農村支援や人獣共存の糸口を見いだした声が多い。

 イノシシ肉は自然の恵み。加工場を作り、消費する仕組みを行政の支援で作り、資源利用を進めるべきだ。学校給食の食材にすればいいのでは?=三原市、自営業安楽武教さん(47)

 食材利用は新たな雇用も生み出し、いいことずくめだ=広島県大野町、会社員中崎高宏さん(32)

 捕獲→解体→販売の流通ルートを構築すれば、地域おこしや収入源になる。都市住民は事業への出資や肉の消費者になる=福山市、主婦神永れい子さん(48)

 終戦後の何もないころ、昔住んでいた広島県福富町の久芳小学校の学校給食で、イノシシ肉をいただいた時の味は今でも忘れられない=東広島市、自営業世羅勝也さん(67)

 イノシシ肉を一般に普及させ、捕獲経費や獣害補償金のねん出までつなぐ仕組みが不可欠=広島市安佐北区、無職迫畑吉美さん(54)

 野生動物の命を無駄にしない食肉や革製品など利用法を開発すれば?=安佐南区、無職八木義彦さん(69)

 イノシシをうまく換金する方法があれば一番いい=松江市、主婦小田きょうこさん(34)

 ボタン鍋、好きです。イノシシ料理があるのは食文化に組み込まれている証拠。この食文化を育てていけばよい=東区、自営業吉野俊司さん(42)

 イノシシはヘルシーな肉。普及を自治体も奨励してほしい=安芸区、パート警備員田中頼明さん(67)

 イノシシ肉を安く販売すればよい。ショウガ焼きが絶品=呉市、公務員山上良夫さん(37)

 捕獲したイノシシを埋めたり焼却するのは、生命資源を無駄にすること。食品として生かすと一石二鳥の享受になる=中区、無職高下坦さん(73)

 「男の料理教室」でまだ、イノシシ肉を食材に使ったことがない。記事のレシピを参考にやってみたい=中区、自営業大久保一男さん(60)

 アイデア料理を都市住民に試食してもらい、方向付けを考えればいい=広島県神辺町、酒販売矢田耕士さん(46)

 ペットの餌にも加工できればいい=同県世羅町、パート山戸治男さん(67)


 アイデア

 獣害のひどさを知り、都市部の人たちも思いついた方策を書き添えている。

 捕獲専門員など公務員化

 捕獲専門員、ハンターの公務員制度を設けたらどうか=福山市、無職石井佳弘さん(69)

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ポーランドの首都ワルシャワの民家で見つけたイノシシの壁画

 広島市の平和記念公園のハトにしたように(不妊の)手術で繁殖を調整するのが確実。食肉化は人間のエゴで絶対反対=広島市中区、介護ヘルパー有馬計四郎さん(65)

 被害農家への補償制度、駆除機器の開発(ビジネスのチャンス)=西区、会社役員近藤憲示さん(69)

 イノシシの聴覚やきゅう覚などを調べ、忌避効果のあるものを見つけてほしい。被害農家や動物学者を交えたフォーラム開催も糸口を見つける方策かも=呉市、年金生活者丸山幸一さん(69)

 里の近くに禁猟区を設けない=庄原市、無職三山勝也さん(80)

 私の里、広島県北の山間部では昔も今もイノシシの捕獲が行われている。田舎のイノシシは、無防備に人前に姿を現さない。積極的な駆除でイノシシに学習させることが、すみ分けのためには必要だ=東区、自営業女性(49)