2001/6/17 主治医に紹介されて、卵巣がんで同じ抗がん剤治療を受けた患者さんの病室を訪ねた。初対面なのに、なんとなく前から知っている感じがする。同じ看護の仕事をしていると聞いていたこともあって、同じ病気と闘っているお姉さんという感じだ。 「抗がん剤、しんどくないですか?吐き気などひどい?」 「ううん、あなたが思っているより、楽よ。少し、むかつきがあるかもしれないけれど」 「よかった。一カ月後に一時間ぐらいの講演の仕事ができる?」 「大丈夫よ。あなたならできるわよ」 「髪の毛はいつごろから抜けるの?」 「個人差があるけど、治療を始めて、二週間ぐらい後から、バサッと抜けるよ。びっくりするほど固まって抜けるから、驚かないでね」 「へー、固まって抜けるんだ」 気に掛かることを尋ねては、自分の中にため込んでいった。経験者が語る言葉は、真実として直接体に染み込んでくる。疑いがないからだろう。 「もっと情報はないかしら」と、院内にある患者用の図書室をのぞいてみた。娯楽物が多く、闘病記などもあるが、最近のがん治療方法などが書かれたものは見当たらなかった。 「このIT時代に、図書室にインターネットができるコンピューターが、一台ぐらいあってもいいんじゃない」と、ブツブツ独り言。仕方なく、外泊した時に東京の国立がんセンターをはじめ、いろいろな機関のホームページにアクセスして、卵巣がんについての情報を集めた。 直にではないが、本を通して、間接的に出会った先輩もいる。転院を間近に控えた乳がんの知人が「これ読んだら」と、一冊の本を持ってきてくれた。ノンフィクション作家の柳原和子さんが書いた「がん患者学」(晶文社刊)だ。 彼女自身も卵巣がんと闘病しながら、病気への姿勢、医療従事者とのかかわり方、自分自身の生き方などを、感性豊かな筆致でつづっている。一字一句を大切に読んだ。私がこれから出合うだろうことが、予告編のように流れていく。 二人の先輩に背中を押され、励まされながら、わたしの化学療法がいよいよ始まった。
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