2006.11.19
「テロとの戦い」矛盾抱え 米国社会の変化探る


 圧倒的な軍事力を背景に、一国至上主義的外交を強力に推し進めてきたジョージ・ブッシュ米共和党政権。上下両院で民主党が過半数を制した先の中間選挙は、米国の有権者の多くがその政策に異を呈した結果だろう。それはまた、「テロとの戦い」の前に、さまざまな矛盾に目をつむってきた米国民の意識の変化の表れでもある。 INDEXへ

 ■混乱続くイラク

 世界を震撼(しんかん)させた二〇〇一年の「9・11米中枢同時テロ」。この事件以来「世界が変わった」ともいわれる。だが、ディック・チェイニー副大統領ら政権中枢をネオコン(新保守主義者)で固めたブッシュ政権こそが、同時テロを契機に「米国による世界支配」という政策実現のために「意識的に世界を変えようとした」というのも事実である。

 ブッシュ大統領は、初めて受けた「本土攻撃」に対して、「テロとの戦い」を即座に宣言。翌月には国際テロ組織アルカイダを支援しているとして、アフガニスタンへの報復戦争を開始した。

 〇三年三月には「大量破壊兵器の保有」など根拠のない理由を挙げて、世界第二の石油埋蔵量をほこるイラクを「先制攻撃」。サダム・フセイン独裁政権は倒したものの、「第二のベトナム化」がささやかれるほどイラクの混乱は続く。

 ■大きすぎる代償

 その代償は計り知れず大きい。イラク戦争開戦以来、イラク人の死者は「十五万五千人を超す」(イラク保健省)という。「六十五万五千人に達している」とする米・イラク合同の疫学者チームによるデータもある。米兵の死者は二千八百人を超えた。

 軍事力でテロを封じ込め、敵対国家の体制変革を試みてきたブッシュ政権。その結果、イスラム諸国と欧米の対立が深まり、世界は「暴力と憎悪」の悪循環に支配される一層危険な状況に直面している。

 力の政策は米国内にも大きなしわ寄せを生んでいる。イラク戦争による戦費をはじめ、世界の軍事費のほぼ50%、五千億ドル(約六十兆円)を超える膨大な軍事支出は、教育・医療・福祉・防災対策など民生予算を圧迫。国民の七人に一人強、四千六百万人余が健康保険の非保持者であるなど貧富の差も広がっている。

 9・11テロ後、国土安全保障省の設立に先だって議決された「愛国者法」は、アラブ系アメリカ人らの容疑なき拘束や、多くの市民の盗聴を許し、この国が大切にしてきたはずの市民的自由や基本的人権をも脅かす。

 テロに対する「不安と恐怖」「愛国心」を強調しながら国民の支持をつなぎとめてきたブッシュ大統領。しかし中間選挙結果が示すように、それだけでは通用しなくなった。「同盟国」としてブッシュ政権に追随し、市場原理主義経済を拡大してきた日本政府だが、このままで果たしていいのだろうか。

 ■市民生活に影響

  ブッシュ政権の下、9・11テロやイラク戦争が米国社会や市民の暮らしにどのような影響を及ぼしているのか。その実態を探るため、七月以降、二回にわたって米国各地を歩いた。

 広島・長崎の被爆者や核開発に伴う世界のヒバクシャ、放射能汚染の実態など、戦争や核時代の「負の遺産」を見続けてきた者の目に映った超大国の姿を、毎週日曜日にシリーズでリポートする。

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