豪雨のつめ跡生々しく 行方不明者の捜索続く

'99/6/30 夕刊

 「苦しかったろう、つらかったろう」。土砂と泥水にまみれた遺 体が次々と見つかる。一体、また一体…。集中豪雨から一夜明けた 三十日、広島、呉などの災害現場では、行方不明者の捜索が続い た。「もし、自分の家族だったら」。二次災害に気を使いながら、 救出作業を続ける消防署員ら。やり場のない憤りをじっとこらえな がら、救出を見守る遺族たち。一方、近くの小学校などに身を寄せ た住民たちは、眠れぬ夜を過ごした。

「米寿祝い」の夢無残 広島市安佐北区新たに2人の遺体

 直径が五十センチ以上の倒木があちこちに横たわり、茶色の土砂が緑 の苗が生えそろった水田を覆う。広島市安佐北区亀山九丁目、農業 河久保敏雄さん(61)方が全壊し、家族四人が生き埋めになった土砂 崩れ現場は、一夜明けた三十日朝、無残な光景をさらした。

 現場は倒木や岩を含む土砂が厚さ一・五メートル以上たい積し、徹 夜で続けられた捜索は難航。作業を進める消防隊員や警察署員たち の疲労の色も濃くなり、三十分交代でスコップを手にした。

 河久保さん方は五月三十日、安佐南区上安三丁目に住む長女の原 田真理さん(26)が長男翔太ちゃんを出産、里帰り中で、喜びにわいていた。その翔太ちゃんは二十九日深夜、死亡が確 認。敏雄さんの両親、勝見さん(87)と妻のチエミさん(82)も三十日 未明、遺体で見つかった。敏雄さんはまだ行方が分からない。

 現場で捜索状況を見守っていた勝見さんの妹(72)=広 島市安佐南区川内二丁目=は「来年はみんなで兄の米寿のお祝いを しようと話していたのに」と声を詰まらせていた。

川沿いに土砂・電柱 「どこから手を」住民絶句/広島市佐伯区

 土石流やがけ崩れの被害が集中した、広島市佐伯区五日市町の八 幡川沿いの地区では、一夜開けた三十日朝、すさまじい被害の輪郭 があらわになった。

 捜索に当たったのは自衛隊や県警、消防などの約五百人。被害は ほとんど八幡川沿いに集中し、午前六時ごろから捜索を再開した。 同町上小深川地区では、第四六普通科連隊(海田市駐屯地)の約百 人などが二班に分かれ、土砂や根こそぎ流された大木、電柱が折り 重なる現場で懸命の作業。七時すぎ、流木の中から、行方不明だっ た小田信子さん(72)を遺体で発見した。

 近くの無職川本正行さん(56)は、ぼう然とした様子で「四回、土 石流の衝撃があった。寝ずに作業を手伝っているが、どこから手を 施していいのか…」。

 住民は、土砂が流れ込んだ自宅から衣類や家財道具を運び出した り、救出作業を不安そうに見守った。同町上小深川の建築業松浦健 治さん(62)は「自宅近くで土石流に足を取られそうになった。辛う じて逃げた」と恐怖を振り返った。

 五日市町内の八幡川沿いでは、同日昼前までになお六人が行方不 明のまま。一九八八(昭和六十三)年の広島県山県郡加計町の水害 でも救助活動をした第四六普通科連隊の河端博中隊長(42)は「あの 時を上回る、すさまじい被害だ」と悲痛な表情だった。

 【写真説明】家族4人が生き埋めになった現場で、最後の一人を懸命に捜索する消防署員ら(30日午前7時30分、広島市安佐北区亀山9丁目)(上)

 土石流に押し流された木や岩が積み重なる八幡川(30日午前8時30分)、広島市佐伯区五日市町上河内(下)

被災現場に重苦しい雰囲気/呉

 土石流が襲った呉市吉浦東町では、四人の行方不明者の捜索が海上自衛隊員や消防団員ら約二百人によって徹 夜で行われた。三十日午前二時五十五分、沢秀子さん(61)が、五分 後に夫の清美さん(69)が遺体で見つかり、災害発生から約二十時間後の午後零時四十分には最後の楠玲子さん(61)の変わり果てた姿が見つかった。

 沢さん夫婦は崩壊した自宅から約二十メートル余り流された土砂 の中で、かばいあうように折り重なっていた。現場は重苦しい空気 に包まれ、近くに住む秀子さんの姉、中村文子さん(67)も、信じら れない様子だった。

 夜が明けてからも緊迫した状況は続いた。二十九日夜、最初に遺 体で発見された楠範彦さん(64)と玲子さんの長男で、海上自衛隊員 実範さん(31)は、土石流に流され、跡形もない自宅を見てぼう然。 「出張先の横須賀で急を聞き、夜を徹して駆けつけたが、まさかこんなことになっているなんて …」と言葉を失った。

 災害の原因となった土石流は、楠さん方の裏山の数十メートル上 から発生し、もともとあった竹林を土砂ごと押し流し、民家を急襲 した。一夜明けた裏山はごつごつとした岩肌が露出。依然、水が滝 のように流れ落ちる。一帯は県が急傾斜地崩落危険区域に指定 し、この現場も近く防災工事が始まる予定だった。

 避難して近くの寺などで眠れぬ一夜を過ごした住民の表情も険し く、現場近くに住む会社員片岡健一さん(33)は「いつ家 に戻れるのか分からない」と不安を隠しきれない様子だった。

 一方、自宅近くの吾妻川に転落したとみられ、行方不明になって いた呉市上畑町、家政婦原田正江さん(57)は午前四時十分ごろ、同 市昭和町の岸壁付近の呉湾で、遺体で発見された。係留していた海上自衛隊の護衛艦の乗員が見つけ、通報を受けた呉海上保安部が収容した。同市西畑町の尾方かほるさん(66)は依然、行方不明で懸命な捜索が続いている。

 広島県安芸郡江田島町中央三丁目、本浦川上流部の暗きょ開口部から転落して流され、行方不明に なっていた近くの江田島小学校一年川本隆史君(6つ)も午前七時二十 分ごろ、本浦川下流海域にあたる同町の海上自衛隊第一術科学校内のポンド(船艇発着場)で見つかり、変わり果てた隆史君を親族が確認し た。

【写真説明】妻の沢秀子さんと折り重なるように倒れていた沢清美さんの遺体を土砂の中から運び出す捜索隊。秀子さんの遺体はこの5分前に見つかった(30日午前3時ごろ、呉市吉浦東町)


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