危険の予兆あったのに 住民・行政ともに油断?

'99/7/1 朝刊

 「なぜ、こんな惨事が起きたのか」。集中豪雨から一夜明けた三 十日、中国地方の被災現場で遺体と悲しみの対面を迫られた住民た ちは、やり場のない憤りを募らせた。住民が自治体に危険性を指摘 してきた個所もあれば、自治体が防災対策を進めていた場所もあ る。専門家による調査も始まったが、住民の心の揺れはおさまらな い。

 広島市佐伯区五日市町下小深川の現場では、四、五年前も近くで 土砂崩れがあり、今も高さ約五十メートル、幅約三十メートルの山 肌がむき出しになっている。近くに住む建設業谷川陸男さん(57)は 「谷筋にダムができていれば、今回の被害は防げたのでは」と悔し がる。

 谷川さんはかつて「大雨になると、谷を伝って土砂が流れてく る。なんとかしてくれ」と市に要請した。

 家族四人が生き埋めになった安佐北区亀山九丁目の農業河久保敏 雄さん(61)方裏山の山津波。崩れた松林は松枯れがひどく、住民の 間で「大雨の時は危ない」と問題になっていた。

 住民によると、松枯れは約十五年前から始まった。高さが十メー トルを超えていても地中深くに張るはずの根が腐り、枝はほとんど ない状態。幹も腐って自然に倒れた松も相当あった。元町内会副会 長の早副有喜さん(77)「山の手入れをしていないから大雨のとき危 ない」と、住民同士でよく話題になったという。

 土石流で主婦一人が亡くなった安佐南区伴東一丁目の現場そば で、団地自治会長、寺田熹(あきら)さん(68)がくちびるをかん だ。「団地そばのため池を宅地にしたのが良くなかったのでは」。 自治会は「水が集まる場所だから、降水時に危険」と反対したが、 県は許可を出したという。「上流に砂防ダムなどを設置してから宅 地にするよう、業者に指導してくれれば良かった」。無念そうに復 旧作業を見守った。

 専門家はどうみるか。三十日、広島市内の被災現場を視察した建 設省土木研究所の南哲行・砂防研究室長は「地質を詳しく調べてみ る必要がある」と指摘。広島市佐伯区観音台三丁目の団地に面し、 土砂崩れした傾斜地を調査した広島工業大学環境学部の菅雄三教授 は「広島市近辺の土質は、花こう岩が風化してできたまさ土が多 く、集中豪雨も重なった。水が流れる谷や沢も点在しており、事前 に土砂崩れを細かく予見するのは難しい」と分析した。

【写真説明】民家の手前にまで押し寄せた土石流。住民たちは大きなショックを受けた(30日午前9時40分、広島市佐伯区観音台3丁目)


homeMenuBackNext