安否一刻も早く 懸命の救出作業

'99/7/1 朝刊

 「青空が恨めしい」。前日の悪夢のような集中豪雨から一転、真 夏の日差しに変わった三十日、被災地の住民の一人は無念そうに空 を見上げた。土砂に埋もれた現場では、災害救助犬も加わり、大規 模な救出作業が続いた。

 広島市安佐北区亀山九丁目の土砂崩れ現場では、行方不明の農業 河久保敏雄さん(61)の捜索が前夜から徹夜で続けられた。同日は日 本レスキュー協会(大阪府)の災害救助犬三頭も加わったが、大量 の土砂や直径五十センチ以上の倒木などで作業は難航、二日目の夜に入 った。

 近くの集会所では午後七時から、遺体で見つかった敏雄さんの両 親の勝見さん(87)、チエミさん(82)と孫の原田翔太ちゃん(生後一 カ月)の通夜が営まれ、参列者は悲しみを新たにしていた。

 四人が生き埋めになった呉市吉浦東町の災害現場では、全員が遺 体で発見されるという最悪の結果になった。二十九日夜に楠範彦さ ん(64)が、三十日未明には沢秀子さん(61)が流された自宅の中で、 夫の清美さん(69)と寄り添うように見つかった。

 そして発生から約二十時間後の同日昼すぎ、楠玲子さん(61)が変 わり果てた姿で見つかると、現場は沈痛な雰囲気に包まれた。駆け 付けた幼友達の藤本久志さん(68)=広島市安芸区矢野西五丁目=は 「楠さん夫婦は来月、四国に旅行するのを楽しみにしていたのに …」と仲の良かった夫婦をしのび、唇をかみしめた。

 土石流などで九人が行方不明になった広島市佐伯区の八幡川沿い では同日早朝から、自衛隊や県警、消防署員ら約五百人が救出作業 を始めた。

 無職今田正喜さん(86)が不明になった同区五日市町上河内の現 場。午前九時半ごろ、「見つかったぞ」との声で消防署員ら六十人 が駆け寄り、手で泥をかき出して引き揚げたが、今田さんは既に死 亡していた。農業住佐正法さん(76)は「一緒にゲートボールをした ばかりだった」と肩を落としていた。

 佐伯区では同日、九人のうち六人が遺体で発見され、午後七時半 でこの日の捜索を打ち切った。

 市佐伯消防署八幡出張所の岩田和昭所長は「流木が泥水を含んで 予想以上に重く手間がかかる。しかし、一刻も早く不明者の所在を 突き止めたい」と話していた。

【写真説明】近所の人に見送られ、災害現場を出る楠玲子さんの遺体(30日午後1時、呉市吉浦東町)=写真左  土砂が流れた跡を調べる建設省の調査員ら(30日午前11時30分、広島市安佐南区伴東1丁目)=写真右


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