団地が危ない6・29豪雨災害(下)

'99/7/17 朝刊

 ■災害への危機意識薄く

 中国新聞社は、豪雨災害に見舞われた広島市佐伯区観音台の東観 音台団地(約九百五十戸)、安佐北区安佐町鈴張の譲羽団地(百四 十八戸)の住民四十人を対象に、防災意識についてアンケート調査 した。「家を買う時、砂防ダムの有無など防災対策を意識した」と 答えた人は、わずか一割の五人。被災前、避難所がどこにあるか知 らなかった人は、三分の一に当たる十三人いた。

 「団地でこんな災害が起きるなんて…」「山を見ても、自然はい いな、ぐらいにしか感じなかった」などの感想もあった。

 ■土石流の上に宅地

 広島市には四万六千八百ヘクタールの森林がある。市全域の面積に占める 割合は六三・二%と、政令市では京都、札幌に次いで高い。広島経 済大の藤原健蔵教授(自然地理学)は「開発適地の少なさから、谷 口や急ながけ下も宅地開発されてきた」と、広島の特徴を説明す る。土石流が谷を埋めてできた高台が宅地になったケースもある。 「家が山に近付き、土砂災害の被害を受ける恐れも高まっている。 危ない所に住んでいる、という意識を持つべきだ」と警告する。

 災害に備える組織が、身近にある。自主防災会だ。避難訓練など に取り組み、災害が起きれば、消火活動や避難所の運営をする。市 消防局が一九八五(昭和六十)年から、町内会や自治会単位で設置 を呼びかけてきた。現在は千八百二十団体。町内会の約九八%に設 けられている。

 ■車では伝えきれず

 譲羽団地では被災当時、自主防災会を兼ねる自治会が、トラック にスピーカーを載せて避難を呼びかけた。走りながらでは、声が届 きにくく、雨で道が悪くなり、行けないところも出て、十分に伝え きれなかった。消火訓練こそ経験していたが、豪雨災害は想定して いなかった。

 被災後は役員会を重ね、災害時の広報連絡体制や役割分担の見直 しを始めている。集会所から全戸向けの緊急放送ができるよう、ス ピーカーを団地内に取り付ける案を検討中だ。清家猪佐美自治会長 (70)は「大災害に備える意識が足りなかった。どんな事態にも対応 できる地域づくりをしなければ」と気を引き締める。

 阪神大震災を機に、活発に動き出した団体もある。安佐北区亀山 南、虹山団地(約千三百戸)の六つの自主防災会は四年前、防災道 具を備える倉庫を三カ所の公園に設けた。ヘルメットやつるはし、 炊き出し用のかままで、二十種類以上の道具がびっしり。大震災の 際、事前に公園に集めていた物資が役立ったのがヒントになった。

 ■避難所手引き作製

 昨秋には、虹山団地を含む亀山南小学校区全体で、生活避難場所 運営マニュアルを作った。市内で初めての試みだ。避難場所運営本 部の下に「救援救護」「施設管理」など六つの班を設け、情報伝達 や食糧調達の方法を十八項目にまとめている。マニュアル通り動け るかを試す訓練もした。

 昨年まで同学区自主防災会連合会長を務めた平盛儀範さん(73)は 「災害が起きてからマップを開いても間に合わない。自宅から避難 場所へのルートを知っておくなど、日ごろの準備が欠かせない」と 指摘する。

 「災害を最小限に食い止めるには何が必要か」。アンケートで被 災団地の住民が選んだ答えには、「行政の素早い情報伝達」ととも に、「危険な場所を日ごろから自分で知っておく」が目立った。自 ら守ることの大切さを、「6・29」は私たちに説いている。

【写真説明】ヘルメットなどの防災用具を保管する虹山団地の倉庫(広島市安佐北区亀山南5丁目の虹山中公園)


HomeMenuBack