中国新聞

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1.リスクの軽減


  危険個所への開発抑制 ―ソフト重視の対策に転換―


 ●自治会が地蔵安置

今も災害のつめ跡が残る現場で、 仮安置した地蔵を前に話す地元住民ら(6月11日)

 今月十一日、広島市安佐南区伴東一丁目の団地、瀬戸内ハイツ (四百七十戸)北端の被災現場に、自治会により、地蔵が仮安置さ れた。寺田熹(あきら)自治会長(68)らが花束を手向けて黙とうし 「災害を繰り返すまい」と誓った。

 北端の九棟のうち、土石流によって三棟が全壊、一人が亡くなっ た。あれから一年。さら地に立つ地蔵の背後には、完成間近の砂防 ダムが見える。

 残る六棟もいずれ立ち退く見通し。県が、住宅の移転を前提に、 その跡地に緩衝地帯となる沈砂池を二〇〇二年度をめどに造る計画 で、現在、住民と移転補償の交渉を進めている。

今月末に砂防ダム(手前)が完成する瀬戸内ハイツ。ダムの向こ う側に沈砂池ができる

 地蔵を眺めながら、大工業の高崎武芳さん(65)は「ここにおりた いけど、仕方ない。もう山の近くには住まん」と複雑な思いを打ち 明ける。北端の九棟は、三年前に完成したばかり。山腹のため池を 埋め立て、既存の団地に継ぎ足した宅地だった。

 広島市内で一日にあった日本地すべり学会関西支部のシンポジウ ム。京都大防災研究所の佐々恭二教授は近年、全国各地で増えてき た斜面災害の特徴について「がけの真下や急傾斜地ではない一見安 全そうな谷筋などの住宅地が、土石流によって被災している」と報 告した。

 全国各地で、山腹を削り谷の奥へと宅地開発が進み、潜在的な土 砂災害の危険性は増大していながら、法整備は遅れてきた。

 従来の「地すべり等防止法」や「急傾斜地災害防止法」は、人家 がある区域を対象としており、事後的にダムなどの防災施設を造る ハード対策が中心。ダムの建設費は一基数千万円から数億円かか り、後から後から増える危険個所に対応しきれなくなっていた。

 ●知事が警戒域指定

 しかし「6・29」以後、国はソフト対策に大きくかじを切り、宅 地開発そのものを規制する新法制定に動いた。今年四月成立し、来 年四月一日施行の「土砂災害防止対策法」。県内の市町村担当者を 対象に、十五日に広島市内で開いた説明会で、建設省河川局の枝川 真弓建設専門官は「最大の目的は立地抑制」と、リスク軽減の狙い を強調した。

 新法によると、都道府県は、急傾斜地の地形や地質をくまなく調 査し、知事が土砂災害の警戒区域を指定。このうち、さらに大きな 被害が予想される範囲を特別警戒区域とし、宅地分譲などの開発行 為を規制できる。既存の住宅でも特別区域に入ると、知事は移転を 勧告できる。また市町村長には、避難体制の整備が義務づけられ た。

 ただ、政令などで具体的な調査方法や指定基準が決まるのはこれ から。広島市の職員は「指定の際に住民や地権者の理解を得るのは 大変だろう。住宅の構造強化や移転を勧告しても、住民の経済的負 担が大きければ実効を伴わせるのは難しいのではないか」と現場の 不安を漏らす。

 県内の土砂災害危険個所は一万九百七十カ所と全国で最も多い。 新法に基づく作業は膨大になる。県砂防課の秦耕二課長は「これ以 上危険な個所を増やさないよう、新法に基づく正確な調査を行い、 情報公開を進めたい」と話している。


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