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「何をなすべきか分かった」 ―訓練や講座 意識高まる― 広島市西部の丘陵地、佐伯区の五月が丘団地(約二千七百戸)で 五月二十七日にあった区総合防災訓練に、住民約五百人と、区や佐 伯消防署の職員、消防団員計約二百人が参加した。6・29豪雨で区 内に大きな被害が出たため、今回初めて大雨を想定し、各町内会に 併設されている自主防災会が主体となって避難所を運営した。 ●雨量基に避難勧告 実際に雨が降る中、午前八時、避難勧告が出され、住民は次々と 五月が丘小学校の体育館に集まった。まず町内会ごとに避難者カー ドを作成。このカードは、「6・29」で住民の安否や要望の確認に 手間取った反省から、佐伯消防署が用意した。
被災情報の収集、救護所設営、水や食糧の配布…。自営業横田恵 徳さん(58)は「何をすべきかが分かった。ただ、町内会役員は交代 制なので、経験をうまく引き継げるかどうか」。近くの特別養護老 人ホームから、車いすの四人とともに避難した職員は「リフト付き のワゴン車は限られ、全員の避難にはかなり時間がかかる」と、災 害弱者への対応を課題とした。 訓練を重ねても、避難勧告が迅速でなければ、せっかくの経験は 生かしきれない。広島市は地域防災計画見直しで、自主避難と避難 勧告を出す基準に雨量を取り入れた。訓練に参加した中原照雄佐伯 区長は「昨年の豪雨では判断が現場に任され、避難の必要性を説明 しにくかった。これからは明確に判断できる」と評価した。 ●連絡網を見直しへ 「6・29」で土石流が発生、十七人の負傷者が出た佐伯区の観音 台団地。住民の多くは「こんな所で災害が起きるなんて」と驚きを 隠せなかった。 土砂の流入が激しかった観音台三丁目で、四月から町内会長を務 める会社員池田誠さん(54)は「危険個所を住民自らが知らなけれ ば」と考え、5月中旬、有志三十人余りで地区の安全点検をした。 土石流が流れる方向や、さえぎる物がない通りを調べ、独自の防災 マップを作った。 すると、県が昨秋公表したハザード(危険個所)マップとは、土 砂の到達範囲が一部違うことが分かった。行政は、地形などから一 定の計算方法で範囲を出しており、現場にあるフェンスや公園とい った施設は考慮されていなかった。 さらに池田さんは昼間、留守宅が多い団地では防災の情報が伝わ りにくい点に留意し、伝達方法の改善に向けて、町内会の全三百二 十五世帯を対象にアンケートを始めた。今後、携帯電話を活用する などして連絡網を見直すつもりだ。 ●個人で被害報告書 こうした動きは観音台団地全体にも広がりつつある。今月十日か ら地元の公民館で、過去の災害の歴史や土地の成り立ちを学ぶ五回 シリーズの防災講座が始まった。 個人で防災に取り組む人もいる。呉市上平原町に住む田渕義尚さ ん(66)。昨年秋から自宅周辺の被害調査を行い、損壊した護岸の状 況や雨水の流路、周辺住民の聞き取り結果も加えたA3判二十四枚 の報告書をまとめて、地元自治会や市に順次配っている。 住民、行政とも防災のための努力が続く。雨中での総合防災訓練 を終えた五月が丘地区自主防災会連合会の古田竜典会長(71)は参加 者へのあいさつをこう締めくくった。「忘れまじ『6・29』。この 言葉に尽きます」 (おわり)
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