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工法や補償の協議難航 ―つめ跡今も 住民に不安― 呉市中央部にすそ野を広げる灰ケ峰(七三七メートル)。南斜面 の一角にある住宅地、西畑町では、6・29豪雨から一年たつ今も、 約十六メートル区間の市道で復旧工事が完了していない。市内で唯 一、車両通行止めが続く個所でもある。
市道は幅四・五メートル。その半分は、山腹を流れ下る堺川の流 路となっている。工事区間の暗きょのうち、上流側の約十メートル はすでに石積みの岸をコンクリートで固め、川底を最大二十センチ掘り 下げる改修を終えた。しかし、下流側約六メートルは、地権者との 協議が難航していて、本格着工できていない。 ●一時は人も通れず 堺川を管理するのは県呉土木建築事務所、道路管理者は市であ る。災害後、被災個所では土のうを積むなどの応急処置をしたが、 三カ月後に一部で暗きょのふたが流失。一時は人も通れなくなって いた。 う回路はあったものの、生活道の早期復旧を望む住民の声は強 く、同事務所は昨年十月には河川改修工事の入札を実施した。しか し、一部地権者と工法などで折り合わないままだ。 急斜面に住宅が密集する一帯は、護岸ぎりぎりまで民家が並ぶ。 同事務所は、改修後も強度を十分保つには河川護岸に一部せり出し た住宅の下を削る必要がある、と説明。これに対し住民は「昔から この状態」と主張し、平行線をたどってきた。県、市は「話し合い を進め、残る区間も早く復旧したい」という。 ●行政に質問書提出 広島市佐伯区五日市町の荒谷川では、砂防ダムの建設がなかなか 進まない。「6・29」で膨大な量の土砂、倒木が流出。六十戸ほど の地区で二十棟が全壊し、四人の犠牲者が出た。 県は、集落最上部に砂防ダムの建設を計画。昨秋、県広島土木建 築事務所は地元に、二〇〇〇年六月完成と説明した。今年一月末に 工事を発注したが、その後、近くで釣り堀を営む事業者が主張する 水利権の補償交渉が進まず、五月にようやく工事用道路の整備など を先行して始めた。 荒谷川の支流にはほかにも、土石や流木が災害後のままの場所が あり、住民は不安をぬぐえない。会社員沖元重喜さん(37)は今月上 旬、夜間に大雨が予想されたため、妻と三人の子供を連れて車で一 時避難した。「一刻も早く工事をしてほしい」と願う。 同地区の石井早苗さん(52)は「ダム工事が遅れた理由などの説明 が行政から十分になされていない」と不満を漏らす。流域の三十七 世帯は今月八日、復旧工事や防災について計七十項目の質問書を市 と県に提出した。県は十六日、書面一枚に七項目をまとめて回答。 市からはまだ正式な答えはない。
行政と住民の協力がなければ、復旧工事は遅れるばかりだ。 ●自力で農地を修復 先月二十六日。佐伯区五日市町上小深川の被災地で、二枚の田に 苗が植えられた。昨年十月から、たった一人で無数の小石を除き、 石垣を築いて復旧させた農業川崎芳枝さん(78)は「やっぱり青田は ええね」と目を細めた。 県農村整備課によると、「6・29」で被害申請のあった田畑は県
内で二千六百二十四個所。その半分は、復旧費用が補助基準に達し
ないなどの理由で、川崎さんのように自力で農地を取り戻すしかな
い。
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